王室作曲家見習い
セドリックにより伝承
「この地を訪れたのは初めてかな、若き旅人よ? ゆっくり休まれるがよい。そして、今宵ひとときは、暖と私の歌をお聞かせしましょう。さてはて、どちらがお気に召しますかな?」
お疲れの旅人よ、ようこそ。こちらで暖かいスープと、私のマンドリンが奏でる美しい音色を提供いたしましょう。ふむ、ブリタニアの冒険譚について聞きたいとな。それでは旅人よ、どうぞ灯にあたり身体をお休めなさい。その間に私がこの国の成り立ちを歌い上げてさしあげましょう。
おそらく、そなたの知りたいことは、これから私が語る歌に全て含まれていることでしょう。私は吟遊詩人としてムーングロウ、トリンシックと旅を重ね、これからそなたが旅で立ち寄るであろう他の街々を歌い歩き、このブリテインにたどり着きました。そして、そなたもまた、旅を続け世界の果てまでたどり着いたとしても、これからお聞かせする歌を聴かずには、ブリタニアを理解するに叶いません。ですから心優しき旅人よ、どうぞ暖まってお行きなさい。では、そろそろ始めるといたしましょう……。
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かつてのソーサリア、四大陸 - ロード・ブリティッシュが統治する以前の、異邦の旅人が訪れるより昔のこと。大地は脅威と絶望に満ち、封建君主の支配する暗黒に覆われた世界でした - それは、モンデイン(Mondain)という名の若い魔道士を誕生させることになります。彼は年齢を重ね、知識を蓄えるうち、決して満たされることのない力と知識への渇望を募らせました。そして、死への矛盾も。彼は死の運命を超越すべく、永遠の生命への執着と妄想に取り憑かれていったのです。やがて彼はある物が密かに保管されていることを知ります。そなたもそれについては聞いたことがあるかもしれません。想像を絶する力と永遠の生命を持ち主に約束する、不死の宝珠について。
私もこの王国の歴史研究家と同様に考えています。それは、魔法の力を学ぶとは、同時に徳も身につけねければならないということです。しかし、彼の渇望と欲求は既に歯止めの効かないところまで達していました。そして多くの苦難の末、彼は宝珠の持ち主の死を望むまでになってしまったのです - そう、己の実の父親の死を。
モンデインという名は、私利私欲のために自らの血筋に剣を突き立てた者として、今でも永遠の闇に取り憑かれた呪われし名前となっています。しかし、この話はまた別の夜にしましょう。私たちが何故、今日に至るまで彼を忌むのか、真の憎悪を理解するために、そなたはさらに多くのことを知らなくてはなりません……。
彼は宝珠を自らの物とした後、究極の力を得るための儀式の準備に取り掛かりました。そして、自己と宝珠を永遠に結びつける儀式の間、宝珠は世界をその小さな球体の中に全て映し(移し)こんだのです - ただ独り、モンデインを除いて……。
不死の力を得た彼は、世界を支配する道具として宝珠を使い始めました - しかし、異邦の旅人がこの世界を訪れ、ソーサリアを何年も旅するうちに、この世界の全ての人に覆い被さる、モンデインの影を拭い去ることこそ自らの運命と決意したのです。やがて異邦の旅人は、多くの戦いの末、ついに宝珠を打ち砕き、邪悪な魔道士の支配から世界を解放しました。不死であるはずの宝珠が砕かれると共に、モンデインの存在は否定され、しかし同時に、この世界からも不死の根源は失われ、宇宙の構造は崩壊し始めることになってしまいました。
そして、異邦の旅人は伝説にその名を残すこともなく人々の前から去りましたが、モンデインを打ち倒した英雄としてその旅人を忘れぬよう、毎年その存在を讃えているのです。もしかしたら、彼はもっとこの地に留まる事ができたのかもしれません。ですが、モンデインの貪欲な遺志がそうはさせなかったのでしょう。いずれにしても、この気高き魂を持った旅人が、この世界を訪れることがなかったら今日のブリタニアは存在しなかったことは間違いありません。
こうして、究極の力を求めた狂気の魔道士は、たった独りの男の冒険によって阻止されましたが、同時に世界は崩壊し始めました - そこで、この世界の守人たちは世界を正常な状態に導くことにしました。宝珠の破壊によって起こされた異変に気が付いた彼らは、時間と空間の構造を一旦解き、再びソーサリアとして編み直したのです。そう、今日、私たちがブリタニアと呼んでいるこの大地こそが、かつてのソーサリアなのです。これはまやかしに聞こえるかもしれませんが、ブリタニア大陸の中央に連なる山脈の峰は、守人たちが世界を編み直した時にできた、縫い目であると信じられています。
また、宝珠が砕かれた時、その破片が宇宙をまたがり幾千にも飛散したと言われています。そして、モンデインの儀式により、宝珠へ世界が映り込まれたように、その破片の一つ一つにもまた、ソーサリアが映り込んでいると考えられています。
これらの破片の存在を証明する方法や、宝珠を復元する手段を、未だ誰も見出すことはできていません。しかし、歴史を遡り、自らの存在する理由、歴史の真実を得られるのであれば、時間の流れを逆戻りさせることに、私の生活の全てを捧げても良いとさえ思っています! あるいは - そう、あなたのような訪問者が現れて - この謎に答えてくれる日がいずれやって来るのかもしれません。
親愛なるセドリック