ムーングロウ

ケリック（Kerick）へ
友よ、トリンシックにはまだ魔法使いマッティカン（Mattikan the Mage）がいるだろうか？この数週間、私は彼のことを何度か考えた。彼が自分の生徒が戦闘系魔法の無知な使い方をしたときにいつも眉をひそめていたのを私は見て、それは彼の傲慢さ故だと考えていたことを思い出す。街の一番の人気者ではなかったのは確かだが、彼の行動は彼自身の責任ではないと今さら気付いたのだ。最近、私は彼の故郷のムーングロウを訪れた。市民は全員が彼と同種の存在であり、唯一の考えは魔法の勉学と知識の蓄積である。その他全てのことがその目的に向けられているのである。

しかし、それは私にとって不快な経験ではなかった。マッティカンとの記憶は、真剣な賢者達をどう扱うべきかに役立っていたからだ。島全体は自然な美しさに溢れ、賢者達は買物や畑仕事よりも勉学にいそしんでいた。

私は最初、彼等は機械的な技術を避けるものとばかり思っていたが、実際には不可解なものをより合理的に分析し、世俗的な作業を減らすための道具として用いている。労力を減らすためのあらゆる道具がムーングロウでは一般的なものとして扱われ、自ら製作することはないが外部から取り入れた新しい道具は、完全に使いこなすことが出来まで寝ることを惜しんでもいじくり回す。もし、故障すれば自ら修理することはないだろうが、やろうと思えば修繕できるということ自体が彼らのプライドなのだ。

研究の大部分は、大学の一部とも作戦本部とも言えるライキュームで行われている。魔術、妖術、錬金術はそこら中で実験されているが、私が心配しているのはどこかの地下室でネクロマンシーと呼ばれる霊術の研究が行われているのではないかということだ。実際、魔法のほとんどがライキュームの壁の中から生み出されたことは事実である。エーテルの瘴気は強く、実験による比較的大きな爆発の後、私は咳を止めることが出来なかった。

私がムーングロウの人々への敬意を持っていないように思われるかも知れない。確かに彼等は狂信的で友好的とは言えないが、話が難解な学究的なものになればどんなことでも熱心に聞いてくれる。彼等の持つ優越感は度が過ぎているという者もいるが私はそうは思わない。彼等は報酬を求めることなくその持てる知識のすべてを分かち合う勇気を持っているのだ。そして彼等が島の東にあるVerity（真理の館）で研究を重ねる限りそれが最良の道であると信じている。

君の親友
ギャレス(Garreth)より

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