ケリック(Kerick)へ
君の言うとおり、確かに私はこれまでの手紙の中でダンジョンについて何も語ってこなかった。私は冒険の途中、キャンプがダンジョンに近い時など多くの機会にダンジョンを訪れている。そして時間の許す限り、モンスターの巣を絶滅させることに自分の身を投じることに生き甲斐を感じている。それは正義という名の元に神経はとぎすまされ、腕を磨くチャンスでもあり、そして私の唯一の収入源でもあるのだ。もちろんそれらの財宝は正当な持ち主に返すべきものなのだが、一度かつてそれを見いだすことも、返還しているという者にも会ったことがない。友よ、その事で私を責めるのであれば仕方のないことだが、返すことが出来るのなら私も無論そうしたいと願っている。そして、そのことについては思い悩まないように務めているのだ。
私の知っているダンジョンは、コブトス、デシート、デスパイス、デスタード、ヒスロス、シェイム、そして、ロング。ロングはかつて監獄として使われていたが、時間ではなく不吉な何かによりその姿を変えている。しかし、内部に潜むのは街の近くでも見られるモンスターばかりでそれほど強力とは思えない。ただ、その数量は底なしとも言えるほどだ。ケリック、「The Eight Dark Dungeons of Britannia (ブリタニアの8つのダンジョン)」という古い歌を覚えているかい?そう、すでに気が付いているとは思うが、私の上げたダンジョンは7つ。つまり歌とは数が合わないのだ。私に言えるのはひとつだけ、もし8つ目のダンジョンが存在するならば、そのことは現代の知識では失われたものだと言うことだ。
トリンシックは西への山麓の丘に続くまで砂地が多くその近くには洞窟が見られないため、自然の洞窟というものを想像しにくいかも知れない。洞窟内は真夏でもひんやりと涼しく、時として下に甘い透明な冷たい地下水により空気は常に湿っている。天井と床には動かずに浮揚しているかのような石画が描かれ、青白いトカゲや小さなコウモリの住処となっている。
ダンジョンはまた知性を持っているかのように設計され、細い通路は曲がりくねり侵入者の行く手を塞ぐようにうねっている。何度も迷いながら安全と思われる場所にたどり着いたならば、その時こそ仕掛けられた罠の心配をしなければならないだろう。ダンジョンを住処とする生き物は邪悪で攻撃的、暗闇の中でも日中と同じように夜目が効く。もしトーチの炎が尽きてしまったならば躊躇なく背後から襲いかかってくるだろう。私は常に魔法を使ってモンスターと同様に夜目を効かせている。これならば両手を空にして鎧に落ちるしずくを払うことさえ出来るからだ。もし、君が望むならばダンジョンに連れていこう。興味があるならなダンジョンに関する文献を見つけて上げることもできる。君が研究したならばその結果を是非手紙に書いて送って欲しい。
君の親友
ギャレス(Garreth)より