イルシェナー伝:パート II
復興
残された人々は徐々に復興を遂げると、その集団の中から指導者が現れた。強く確信して言えることだが、イルシェン(Ilshen)は人々をまとめ上げ、秩序を復活させた。イルシェンは僅か22歳の若さにして、文明の再構築に乗り出したのだ。世界中の全てのものが適切に配されるように尽くし続けた彼女の献身以外のことで、彼女について言及された記録
は殆ど残されていない。我々は世界の再構築を始めたこの若い女性についての文献をもっと集めたいと願っている。
世界の北東部に集まった人々は山際に街を形成し、モントール(Montor)と名付けた。その昔、ソーサリアには同じ名前の都市が存在しており、それは皮肉にもロード・ブリティッシュにより統治されていた。当初、私はこの名前は親しみのあるかつての街の名前を流用したのだと思っていた。しかし、読者諸氏はこの名前を "山の情熱(Mountain Passion)" と直訳することができるだろう。後者の方が正しいようだ。別の文書では、この名前は "Mont-Or" と表記されている。後者の名前は災害の中を生き抜く人々の都市の名前として実に適している。この都市ができあがるまでには40年ほどかかった。全ての文献を総括するに、この都市は山と街との間を滝が流れる楽園であったようだ。イルシェンと学者たちの議会によって法と政府機関が定められ、平静に統治されていった。
モントールは、完成から20年後に破壊された。何が起こったのかについての文献は発見されていないが、モントールは火山の噴火に遭ったのではないかと思われる。形成された都市は完全に振り出しに戻ってしまったのだ。また、モントールの人々はこの噴火を予期しており、避難していたとの話も残されている。
再生と分離
モントールという単一の都市は、いくつかの党派に分かれていった。この分裂は、都市が破壊されるより以前に既に生じていた。都市は破壊されてしまったが、その場に留まった人々もいた。彼らは山を下り、テントやワゴンを設置してキャンプを続け、噴火が収まるのを待って街に戻ったのである。
西方に向けて道が延び、山は分かれていた。途中には砦が築かれていて、越えてくるものを防いでいた。世界の北西部は巨大な森でジャングル化しており、南部へと広がっていた。この地域の中心部には "Terort Skitas" - "知の聖堂" がある。我々が手にしているイルシェナーに関する情報は、殆どがこの神殿で発見された古文書である。この神殿は都市が破壊されるよりも昔に建設されたものであり、破壊される前のモントールに似ている。そして、モントールから逃げ延びた人々のうち、ここを訪れた人々もいた。彼らは自分たちを "アンスキタ
ス(Anskitas)" と称した。それは大まかに、"覚醒された知識"として翻訳されている。そこは学問と熟考の場所となっていた。殆ど空の本棚にある記述から判断するに、ここは恐らく我々のライキュームに匹敵するものであったのだろう。
西方へと移り住んだアンスキタ
ス民は全体の一部にすぎなかった。残りの人々は学問と黙想に身を置くことを好んではいなかったのだ。ある古文書に拠れば、彼らは『…禁欲的で力強く、あらゆる物事の均衡を追い求めている』と表現されている。彼らは南へと向かった。南方で、彼らはあまり友好的ではないリザードマンの種族を発見した。南西部は、沼地化したジャングルが広がっていた。最南端には、彼らを常に悩ませることとなったリザードマンの巣窟となっていた。これは恐らく彼らが街を形成していたということを意味しているのだろう。トリンシックに匹敵するような砦のように、壁に囲まれた都市があったのだ。彼らはそれをミスタス(Mistas)と呼んだ。街の西には二つの塔があり、地下に広がる巨大砦の入り口となっていた。我々の得ている全ての情報に拠れば、彼らは非常に高貴な人々であったということが示されている。
モントールを離れたまた別の一団は南方へ向かっていた。ここで発見されたものについて、我々にはまだ解明できていない部分が残されている。世界の南東に位置する場所に、水上に設けられた都市がある。これに関しては未だに謎に包まれた部分が多い。彼らは全く第二言語を用いなかったのだ。彼らはその都市を "レイクシャー(Lakeshire)" と呼んだ。その一方で、アンスキタ
スの人々はその地を "マイレグ(Mireg)"と表現している。これは翻訳すると "水上の家(Water-Home)" となる。また、ミスタ
スの人々は、そこを "不幸の地(lacking will)" と呼んだ。全体として、非常に混乱を招いているのだ。我々がもっと沢山の情報を集められれば、解明されることになるだろう。
この地域の周辺のいたるところで、見慣れない魔法が研究されていたようだ。湖の中心には城が確認されている。まだ誰も調査として訪れたことはないのだが、知の聖堂で発見された文献にその地への通路があると記されている。
『Est ven lem was mani』
翻訳: 『高寿を求める者』
これは一体何を意味しているのだろうか。
レイクシャーの北側には、また一風変わったも地域を見ることができる。巨大な木の中に作られた村で、ピクシー(Pixies)と呼ばれるものが生息している。そんなばかげた話を信じるのは容易いことではない。南にはさらなるミステリーが広がっている。そこには恐らく境界線を示していると思われる石塚が見つけられることだろう。あるパーティーの報告によれば、森の中で風変わりな造形物を見たということだった。街の西には、廃墟と化した鍛冶場があり、そこはまるですぐそばの洞窟から掘り出された鉱石を加工していたかのようである。今ではすっかり害獣に占拠されてしまっている。この地域に関する最後の点は、山のすぐ横に築かれている大きな要塞だ。中に入るほどの勇気を持ったものは未だいないようだが、外側には骨や頭蓋骨までもが堆く積み上げられている。この場所に関して、アンスキタ
スのとある本に記述がある。
『korp ku-nte reg de por-ilem-mani-lemi』
翻訳: 『生命を蝕むその住処での死』
この地を最初に訪れる者は誰なのだろうか。