近くのジャングルからの熱気を断ち切るように優しい海風がそよぐこの街を、デュプレはずっと愛してきた。あの数年間の後でさえ、トリンシックは我が家のように感じられる……。しかし、砂岩の壁はかつてのような心地よさを与えてはくれなかった。フェルッカの建物の幾つかには、ジュオナール(Juo'nar)と堕落した騎士による都市攻撃に彼が対抗した戦いの傷が未だに残っているが、ここトランメルではその戦いの証はなかった。デュプレは決してこのことに慣れることはできそうにない。こういった小規模の戦いをした後はいつもそうするように、彼は武器工房に向かった……。あの金属モンスターどもと戦うと、必ず剣が破損してしまうのだ。そこからすぐにThe Keg and Anchorという酒場に向かい、いつものテーブルにつこうとしたが、彼のお気に入りの席には既に先客がいた。小声でぶつくさ言いながらテーブルをぐるりと回ったデュプレは、その男の向かい側に座り彼のシワシワの服や左手で何かを握りしめている様子を観察したが、その物体からは薄汚く光る金属球がぶら下がっていた。
「私が判らないんじゃないかと思ってましたよ、古ぼけたブリキ缶くん。でも、味覚に関してはあなたを批判できませんね。こんな風来坊から一番いい情報を引き出すには、どんなうまい話で釣ればよいのかよくご存じだ」そう言うと、彼はグラスをデュプレに向けて掲げてから残りを一気に飲み干した。「もちろん、あなたは私がおそらく死んでしまったと思っていたのでしょうね。それとも老いぼれ道化師のことなんて考えもしなかったかな? さて、それでは話してあげましょう。あなたも我々の街で起きたことを見てきたでしょうが……、テルマーはもっとひどい状況です。ヴァーローレグ(Ver Lor Reg)から逃れた難民は何かに感染しているようですね。難民たち自身は影響を受けていませんが、テルマーのガーゴイルは違う。彼らは隠そうとしてはいますが……、ザー(Zhah)は感染者を捨てられた漁村に隔離しています……。そしてあのヴァーローレグのガーゴイルたちは……、彼らの行方を知る者がいるはずです。私は知りませんがね。ともかくあの漁村は……、死と死にゆく者のものです」