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覚醒 - 第二章

投稿日:2012年3月2日

「だから、黙って私の言うとおりにしていればこんなことにならなかったのよ。あんたのせいでこんな事になったんじゃないの。もういいわ、ここからは私が先に行くから」数多くの監視の目を盗んで金属の通路を忍び足で進みながら、カリー(Callie)はガイドに対して小声で不満げに言い、手櫛でブロンドの前髪をかきあげた。「とにかく、見つからないようにしなきゃ」地図に描かれた長い壁の一つのそばを通り過ぎた時、ガイドのバルサン(Balthan)は長い錆びついた機械の残骸と、煤けた壁があるのに気づいた。バルサンは口を開きかけたが、そのとたんに前を進む考古学者の背中にぶつかり、考古学者はふり向いて彼を睨みつけた。「ちゃんと前を見て歩きなさいよ」と、彼女は小声でしかりつけた。カリーはバルサンに後ろを向くよう身振りで伝え、バルサンがそれに従うと、彼の背負った荷物から何やら特殊な装置を取り出した。それは人の手によって作られた道具ではなかった。カリーはその道具を手に持つと、壁の奇妙な光るパネルの留め具を外し始め、近くの色とりどりのボタンがついた制御盤を取り外しにかかった。作業を進めながら、彼女は興奮しつつも抑えた声で言った。「これは世紀の大発見よ。きっとベスパー博物館に展示されるわ。発見者である私たちの名前と一緒にね。歴史に名を残すのよ」

チョキンと音を立てて、制御盤を固定している最後の支柱をなんとか外すことに成功し、カリーは再び道具をガイドの荷物にしまいこんだ。彼女はまず奇妙なパネルをずらし、繋がっている線を切り、パネルをガイドの荷物に押しこんだ。次に制御盤を掴んで引っぱったが、外れそうになかった。カリーは持ち方を変え、なんとか制御盤を最後の取付ボルトから外したが、その直前に制御盤前面の奇妙な色付き図形がわずかに下がったような気がした。すると彼らの周囲で建築物が突然脈動を始め、その中の導管をエネルギーが流れだした。カリーは大急ぎで制御盤をしまいこんだ。「早く、逃げるわよ」建築物のすみずみに、身体が揺れるほどの強さの邪悪な振動が伝わりはじめた。「さぁ、行って」カリーはリコールのスクロールを二本取り出すと一本をガイドに渡し、彼が使うのを待った。バルサンが視界から消えた瞬間、角を曲がって来た赤いローブ姿の魔法使いが力の言葉を唱え始めた。リコールの力の言葉を唱えたカリーは転送される瞬間に激痛を感じ、そして闇が訪れた。



ハーラン(Harlann)は、自分の正体を隠すためにまとっているチクチクするローブの乱れをなおし、レイクシャー(Lakeshire)の街を出て、きらめく青いポータルに向かって進んでいた。ポータルの魔法的性質はよく知っていたが、これを使う時はいつも小さな恐怖がうずくのを感じる。だがすぐに彼女は大理石の建物にあるムーンゲートに転送された。慈悲の神殿に戻って来たのだ。ミーアの魔法使いに変装したままのハーランは、ラットマンなどのうっとうしい生物たちが彼女と距離を置いていることに気づいた。既に、ミーアの元を訪れるというシロン(the Shirron)の願いに逆らってしまっていたが、重要な情報をなんとか入手したので、この意外な新事実を伝えればシロンの許しは得られるはずだ、とハーランは確信していた。ジュカがそれまで砦として使っていた城に通じる山道を歩きながら、ハーランは言わなければならない言葉を何度か心の中で繰り返し事前練習した。一族を悩ます悪夢と幻影は世界全体に広がっているものではなかったが、ミーア族も似た出来事に悩まされていた。この現象はミーアにとっても説明がつかないものであったし、ジュカを襲おうとしているのは彼らではなかった。そして恐らく最も重要なことに、ヴァーローレグ(Ver Lor Reg)のガーゴイルたちや野営地のジプシーたちは、誰一人として似たようなことを経験していないのである。山腹の小道を歩いていると、邪悪な振動が地下道を走り、地面を震わせるのを感じた。そしてそれは彼女の平衡感覚を束の間狂わせた。

陽光の中に走りだしながら、巨大な力が道の先に向けられていることを感じとり、ハーランの毛は逆立った。ジュカの魔法使いがこのような力を発するはずがなく、これは攻撃に違いなかった。「同胞よ、逃げろ! これは攻撃だ!」驚いているガードたちはジュカらしき声に振り向いたが、ミーアの身なりをした彼女を見てすぐさま身構えた。ハーランは短く息をつくと、ザ・ウェイの精神(the Art of the Way)に集中し、杖を片手に突撃した。話し合っている暇などない。左と見せかけてガードの右をすり抜け、膝の後ろから一撃を叩きこむと、ガードは地面に崩れ落ちた。地面に杖をつきさし、反動を利用して跳躍すると城壁の中ほどに取りついた。仲間たちから放たれた矢が周囲の壁に次々と当たる中、ハーランは素早く壁を登って行った。

ハーランがなんとか頂上にたどり着いたとき、城全体が揺れていた。身を躍らせて城内に飛び込む。機械のジャガノート(Juggernaut)が突進してきたが、ジャガノートの強力なドリルを金属で覆った杖で食い止め、すんでのところで避けた。ジャガノートをすり抜けて突破し、後方の角にある片方の階段の吹き抜けへ向かう。すれ違った赤いローブのコントローラーが立ち止まって呪文を浴びせようとしてきたが、既にハーランは部屋の反対側の階段に飛び込んでいた。階段を前転で転がり下りた彼女は、足から着地した。階段に打たれた体は痛みで悲鳴を上げたが、ハーランは精神集中を途切れさせなかった。シロンの所まであと少しだ。まるで建物全体が数フィートもずれたかのような揺れが襲ったが、ハーランは構わずドアに走り寄った。ドアを乱暴に開けたとたん、突進してきたバーサクジャガノート(berserk juggernaut)が目の前で壁を砕き、陽光の中へ走りさっていった。それには目もくれず、ハーランはシロンの間のドアを強く引き開けて中に踏み込んだが、電光石火の早さで伸びてきた腕がハーランの首を掴み、彼女を高々と持ち上げた。ハーランはなんとか警告の言葉を口に出そうとしたが、目の前のがっしりとしたジュカの手が喉を絞めあげ、それを許さなかった。ハーランの声がようやく喉を通れるようになったのは、なんとか彼女がフードを外して顔を見せ、シロンが手を離して彼女が地面に落ちてからのことである。

「どういうことだ、ウェイマスター(Waymaster)ハーランよ。私が認可しなかった偵察からお前が戻ると同時に、ミーアどもの大規模な魔法攻撃が始まるとは」

「シロン、我らは避難せねばなりません。これはミーアによる攻撃ではありません。ミーアも我々と同じ苦しみを味わっています。とにかく避難を!」

「ジュカのシロンが敵に後ろを見せるなどありえぬ!」

「ジュカにはリーダーが必要なのです。グレートマザー(Great Mother)よ、お許しください」そういうなり、ウェイマスター ハーランはくるりと身体を回しながら杖で指導者を打つと見せかけ、一瞬にして身体を沈めるとシロンの足を払った。この大柄なジュカが地面に倒れると同時に新たな振動が起き、ハーランは杖でシロンのこめかみに一撃を加えると、杖を横に放りなげた。意識を失ったシロンをなんとか担ぎあげ、先ほどのジャガノートがあけた穴からよろめきながら出て行った。その時弓の唸る音が聞こえ、ハーランの右膝が崩れた。見るとふくらはぎに矢が刺さっている。地面が割れはじめ、砦からの悲鳴が強まるなか、ハーランは再び立ちあがった。ジュカの魔法使いが放ってくる攻撃呪文や矢が彼女の周囲にバラバラと着弾したが、マインドブラストの呪文で視界が白い光に包まれるとそれもやんだ。ザ・ウェイの精神に再び集中し、悲鳴を上げる筋肉をさらに酷使し、あの魔法の中心部を抜け出せたと思えるところまでなんとかたどり着くと、ついに足は負傷に屈し、ハーランはゆっくりと地面に倒れた。視界の隅に闇が忍び寄るのを感じたとき、背後の城から百人かそれ以上の悲鳴が一斉に聞こえ、そして突如として途絶えた。地面がまだ揺れているのを感じとり、ハーランは全身からありったけのエネルギーをかき集めて進もうとした。視界はかすみ、身体と同じようにふらついた。そして一歩ごとに担いでいるシロンの身体がひどく重くのしかかってくる。足元の感触は次第に変化していった。草地から土へ、そして砂地へ。周りのあらゆるものが引き裂かれそうに思えたが、シロンの太い息遣いだけは感じられた。彼女が砂漠の中の大きな柱群の中で膝をついたとき、今までに聞いたこともない耳障りな音が大気を切り裂き、あたりに大量の残骸がまき散らされ、煙がたち込めてきた。「グレートマザーよ、我らをお守りください……」囁くようにつぶやいたハーランは、忍び寄る闇の前に祈るように倒れこんだ。岩や城塞のがれきが降り注ぐ砂漠の中で。

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