ハーラン(Harlann)は、自分の正体を隠すためにまとっているチクチクするローブの乱れをなおし、レイクシャー(Lakeshire)の街を出て、きらめく青いポータルに向かって進んでいた。ポータルの魔法的性質はよく知っていたが、これを使う時はいつも小さな恐怖がうずくのを感じる。だがすぐに彼女は大理石の建物にあるムーンゲートに転送された。慈悲の神殿に戻って来たのだ。ミーアの魔法使いに変装したままのハーランは、ラットマンなどのうっとうしい生物たちが彼女と距離を置いていることに気づいた。既に、ミーアの元を訪れるというシロン(the Shirron)の願いに逆らってしまっていたが、重要な情報をなんとか入手したので、この意外な新事実を伝えればシロンの許しは得られるはずだ、とハーランは確信していた。ジュカがそれまで砦として使っていた城に通じる山道を歩きながら、ハーランは言わなければならない言葉を何度か心の中で繰り返し事前練習した。一族を悩ます悪夢と幻影は世界全体に広がっているものではなかったが、ミーア族も似た出来事に悩まされていた。この現象はミーアにとっても説明がつかないものであったし、ジュカを襲おうとしているのは彼らではなかった。そして恐らく最も重要なことに、ヴァーローレグ(Ver Lor Reg)のガーゴイルたちや野営地のジプシーたちは、誰一人として似たようなことを経験していないのである。山腹の小道を歩いていると、邪悪な振動が地下道を走り、地面を震わせるのを感じた。そしてそれは彼女の平衡感覚を束の間狂わせた。
陽光の中に走りだしながら、巨大な力が道の先に向けられていることを感じとり、ハーランの毛は逆立った。ジュカの魔法使いがこのような力を発するはずがなく、これは攻撃に違いなかった。「同胞よ、逃げろ! これは攻撃だ!」驚いているガードたちはジュカらしき声に振り向いたが、ミーアの身なりをした彼女を見てすぐさま身構えた。ハーランは短く息をつくと、ザ・ウェイの精神(the Art of the Way)に集中し、杖を片手に突撃した。話し合っている暇などない。左と見せかけてガードの右をすり抜け、膝の後ろから一撃を叩きこむと、ガードは地面に崩れ落ちた。地面に杖をつきさし、反動を利用して跳躍すると城壁の中ほどに取りついた。仲間たちから放たれた矢が周囲の壁に次々と当たる中、ハーランは素早く壁を登って行った。