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華麗なる転身

投稿日:2010年9月30日

モーガン(Morgan)は駆け出しの盗賊だった。




誰もが一目置く大盗賊になることを夢見て、日夜つまらないものを盗んでは悦に入る。そんな暮らしを繰り返していた彼に転機が訪れた。

ある日、大きな屋敷に忍び込んだところ、いかにも高価そうな金色に輝く兜を発見する。これは今までにない大物だ、と喜びながら家に戻り、試しにモーガンはその兜を被ってみることにした。すると、予想以上に重く被っているのが辛い。すぐに外そうとするが、どうやっても外れない。慌てたモーガンは盗みに入った屋敷へ戻り、兜を外すための手かがりを探すことにした。

屋敷へ戻ったモーガンは兜の飾られていた部屋を必死になって調べ回り、ついに兜について書かれた一枚の羊皮紙を見つけた。そこには、身に付けた者には死が訪れる呪いの兜であること、そしてその呪いを解く方法が記されていた。

呪いを解く方法は簡単なものだった。いや、そのはずだった。「浄化の滝」と呼ばれる滝に打たれることで呪いは解けるらしいのだが、それだけのことができない。滝の前の大きな扉が開かない。開け方が分からない。これまでいくつもの錠前を破ってきたというのに、死を目の前にした焦りからか、まったく歯が立たなかった。

自信家の彼は誰かを頼ることを嫌っていたが、このときばかりは命には代えられないと諦め、プライドを捨て冒険者に助けを求めることにした。その甲斐あって、扉を開き滝へ辿り着くことに成功する。無事に呪いを解いたモーガンは、冒険者に感謝の気持ちを伝え、盗賊の世界から足を洗うことを宣言する。そしてそのまま姿を消した。



それから数日後。モーガンは羊飼いとして、新たな人生をスタートさせていた。

羊飼いとしてはまだまだ未熟であり、貧しい暮らしだった。けれど、盗賊として人目を盗みながら、ひとり寂しく心をすり減らしながら暮らしていた頃とは違い、かわいい羊たちと静かに暮らす日々は今までにない充実感をモーガンに与えていた。 ただひとつ、不満があるとすればお金のことだったが、それもこれから解決するつもりだ。



つい先日のことだ。ニュジェルムのある富豪から、羊を数匹調達してほしいという話が舞い込んだ。未熟者である自分にどうしてそのような話が来たのかと、モーガン自身不思議に思ったが、とにかく仕事を引き受けることにした。金が欲しい、素直にそう思っていたからだ。

だが、いざニュジェルムへ羊たちを連れて行こうというときに問題が起きた。モーガンはスクロールを使いニュジェルムへのゲートを開くが、そのゲートを見るや羊たちは一匹残らず怯えてしまったのだ。「しまった!」とモーガンは思った。

あまり魔法が得意ではないモーガンは、普段ほとんど魔法を使うことがない。そのため、羊たちは魔法というものに馴染みがない。それがいきなり目の前に大きな魔法のゲートを出されたのだ。羊たちが怯えるのも無理はなかった。

ゲートでの移動を諦めたモーガンは別の方法を探すことにする。といってもニュジェルムは海で囲まれた街、船で行く以外の選択肢はないのだから迷うことはなかった。だが、船での移動には不安があった。海に関する物騒な噂を耳にしていたからだ。

物騒な噂というのは、ニュジェルム近海で海賊が出ただとか、魔物が出ただとか、そんな内容のものだった。モーガン一人であれば特に問題ではないが、羊を連れているとなると話は別だ。操船中に襲われでもしたら、羊たちを守りきる自信がなかった。

大切な羊たちにもしものことがあっては困る。しかし、取引をやめるつもりはなかった。なぜなら、このときのモーガンはまるで金に飢えた商人のように、とにかく金が欲しいと、自分でも不思議なくらい強く思っていたからだ。

「くそっ……俺様は羊飼いだというのに、なぜこんなにも金を欲しているんだ。たとえ貧しくても羊たちと一緒にいられたら、それだけで幸せなんじゃなかったのか!」

守銭奴のような自分に苛立ちを覚えながらも、取引をやめる気にはなれなかった。だが、自分一人で羊たちを守りながらニュジェルムへ到達する自信がない。

「もう一度だけあいつらに、冒険者たちに頼んでみよう」

そうと決まれば、あとは船の調達や航路の確認などを済ませるだけだ。モーガンはさっそく出発の準備に取り掛かった。



そして今、モーガンと羊たちを乗せた船はブリテインを目指し前進していた。



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