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ローカルニュース

愛ゆえに

投稿日:2010年7月3日

男とは、愛するもののために“究極”を追い求める生き物である。だが時として、その行為は衝突を生み、自らを困難という名の谷底に突き落とすことにつながる。
これは、谷底へ落ちた一人の男の物語である。



三年前、光の道で落ち合った恋人たちがいる。二人を見たことがあるものもいるかもしれない。パラディンのアルタイル(Altail)、ネクロマンサーのベルガ(Velga)だ。

ベルガの父親グレン(Glen)は、完全に納得することはなかったが、難題を乗り越えたという事実があったため、二人の仲を三度認め、二人は幸せに暮らしていた。
二人には旅人のための小料理屋を開店するという夢があった。アルタイルはこの夢のため、厳しいネクロマンシーの修行と、違う意味で厳しい料理の修業をグレンから受けていた。夢の実現のためなら、この厳しさに耐えてみせる。そうアルタイルは心に誓っていたのだが、店そのものについては全く考えず、目玉メニューの考案に明け暮れていた。

「最近、巷ではシチューの話題が一番熱いみたいだね。ちょっと前だとパイか……」
「えー、私、シチューは嫌いよ。何が入っているかわかったものじゃないし。絶対に虫とか石とか入ってるに決まってるのよ」
「ベルガ。キミは、まだちゃんとしたシチューを知らないからそんな風に思うんだよ」
「そんなことないわよ。私、お父さんのいろんなシチューを嫌々ながら食べたことあるわ」
「ううん。本物のシチューを見せ、いや、食べさせてあげるよ」
「本当に? 私、嫌いな物は本当に嫌いなのよ?」
「伊達に何年も修業を続けてないんだよ? いいアイディアもあるんだ。シチューとパイをミックスして……」
「え? わぁ。ステキ」

二人が和気あいあいと会話を弾ませていた厨房。その厨房に存在する暗闇に溶け込むようにしてグレンがいた。彼は息を殺してこの話を聞いていた。

「……若造が。何もわかっちゃいない。そんなアイディアを、また、“究極のなんとか”とか言い出すんだろうが」

数日後。
アルタイルが厨房で独り試行錯誤していたところへグレンが突然現れた。

「おい、若造」
「うは。と、義父さん」
「だから、その呼び方で呼ぶな! わしは父ではない。グレンだ」
「いやだなぁ、もう、何年もほとんど一緒の生活なんだから、義父さんでいいじゃないですかぁ」
「ふんっ。で、なんだそれは」
「あ、これですか? これはベルガのために研究しているシチューですよ。多分、究極のシチューになりますよ。究極の小料理とあわせて、“究極の二大看板メニュー”とかかっこいいじゃないですか」
「馬鹿もんがっ。まだ“究極”とか言いよるかっ。お前はいつもそうだ。抜けておるのだっ」
「はぁ? 何が抜けてるんですか? シチューとパイのコラボレーションなんて、史上初じゃないですか? だったら“究極”って言っていいんじゃないですか」
「……お前、徳は知っているな?」
「馬鹿にしないでくださいよ。八個あるアレですよね?」
「八の前には何がある?」
「『八徳』なんだから、八しかないでしょう?」
「愚かだな、アルタイル。あまりにも愚かだ。いいか。そもそも徳には真実、愛、勇気の三原理というものがあるのだ」
「はぁ。でもそれは料理に関係ないでしょう?」
「違うな。まあ聞け。他にもある。その昔、デスパイスでは、ドラゴン、リザードマン、ラットマンの三種族が社会的生活を送っていたという」
「へぇ」
「秘薬、魔術書、力の言葉の三つが揃って魔法の効果が生まれる。そこのテーブルを見ろ。幅、奥行きそして高さ、それら三つの長さで大きさが表せるであろう? 音楽もそうだ。打楽器、弦楽器、吹奏楽器が揃えば立派な楽団だ」
「義父さん、それ、全然料理と関係ないじゃないですか」
「最後まで聞かんかっ。料理と言うものは、目、鼻、口の三つで愉しむものだ。ことほどさように、“三”は非常に重要な数字であるのだ。すなわち、“二”つを組み合わせた所でまだまだ究極とは言えぬのだっ!!」
「で?」
「やはり愚鈍は愚鈍か……。あまりにも予想通り過ぎて泣けてくるわ。食べながら自分を追い込み、十分に考えるのだ! 理解できぬのならベルガに会うことは永遠に許さぬ!」


「また結局これですか。おや、今回は焦げてないじゃない。甘い香りもするし。これなら今までよりも気分的に楽だし、技術の進歩で今回こそ余裕だね……。え? 焦げたのよりも密度が高いだと!?」
「うぇぇ、やっぱり無理だ……」

やっぱり一人では無理だと早々に察したアルタイルは、三度冒険者たちへ協力を求めることにしたのだった。

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