男は愛するもののためならば、どんなことでもしようとするものである。だが、その愛のための行動が、悲しみや障害を生むこともある。
今まさに、彼はそのような状況に陥っていた……。




一昨年、光の道で落ち合った恋人たちがいる。二人を見たことがあるものもいるかもしれない。パラディンのアルタイル（Altail）、ネクロマンサーのベルガ（Velga）だ。

ベルガの父親グレン（Glen）は二人の仲を再び認め、二人は幸せに暮らしていた。
二人には夢があった。そう、旅人のための小料理屋を開店することだ。アルタイルはこの夢のため、厳しいネクロマンシーの修行に加え、ある意味厳しい料理の修業もグレンから受けていた。夢の実現のためなら、この厳しさに耐えてみせる。そうアルタイルは心に誓っていた。

「小料理と言っても、お客さんをきっちり満足させないといけないと思うんだ。だから、小さく見えても大きく満足してもらえる究極の小料理を発明して目玉メニューに使おうと思ってね」
「わぁ。ステキ」
「でも、なかなかうまくいかないもんだね。だけど、あきらめないよ！　この難題をクリアしてぼくはやり遂げてみせる！」
「うん、期待してるわ」

日々努力を重ねるアルタイルであったが、ある日突然、修行の場である調理場に全く姿を見せなくなった。ネクロマンサーの修行もおろそかにしている。
たまらずベルガはアルタイルに聞く。

「アルタイル、最近どうしちゃったの？」
「え？　な、なんでもないさ」アルタイルの声がうわずる。
「隠し事があるのね。寂しいわ……」
「いつも一緒にいるじゃないか」
「体はここにあるかもしれないけれど、心はどこか遠くに行ってしまっているようね。心がここにないなんて……」
「そんなことないって」
「嘘……」

ベルガは明らかに落ち込んでいるように見えた。そして、この動向にグレンが気づかないはずがない。
彼はアルタイルに見つからないようあとをつけた。途中、アルタイルはムーンゲートを使用したために最後まで尾行することはできなかったが、粘り強く情報を集め、アルタイルが足繁く通っている先が徳之諸島であると確信した。

グレンはムーンゲートそばの木陰でアルタイルを待つ。

「おい、そこの若造」
「うぉっ！　と、義父さん」
「父と呼ぶな！　まだ完全には認めておらん！　ベルガを放っておいて、修行もおろそかに徳之諸島に毎日通うような奴は特にだ。どういう了見なんだ？」
「えっ？　ほら、義父さん、国王令とかいう奴で、今徳之諸島はお祭り騒ぎじゃないですか。ルナ育ちのぼくとしては、もう血が騒いじゃって騒いじゃって、行かずにはいられないんですよ！」
「何をたわけたことを言っている！　何が祭りだ！　お前、そんなもんでベルガをおろそかにするのかっ！　お前はベルガを本当に愛しているのかっ！」
「やだなぁ、義父さん。火事と花火はブリテインの華って言うじゃないですかぁ」
「……そうか……。何を言っているのかさっぱりだが、相変わらずの愚鈍ぶりだな。まったく、なにが『究極の小料理』だ。軟弱者のお前はベルガの姿を目にする権利もないわ！　ベルガに再び会いたいのならお前の男気をもう一度見せてみろ。思い出の風景が見られる場所へ行け。ベルガはそこにいる」
「義父さん。忘れたんですか？　そんなのは簡単に攻略できますよ。見ててください！」
「修業を怠けるお前には無理だと思うがな」


「あー、またこれか。ってか、二人だけの秘密だったのに、なんで『究極の小料理』の話知ってるのかなぁ。徳之諸島に行くってのも、誰にも言ってないのに知ってたし。ま、いいか。最近はいい消化薬もあるから、こんなの楽勝だね」

「……え？　な、なんだとっ。こっ、これは……！！　料理に見えるけど実は食べられないのもあるし！」

またもや途方にくれたアルタイルは、もう一度冒険者に助けを求めることにしたのだった。