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プラチナムドラゴン(Platinum Dragon)

投稿日:2009年4月7日

剣が二人の人間の間で激突する。一人は6フィート2インチの背の高い男性、一方は5フィート7インチの女性だ。若いその男性は普通の戦闘装備を身につけ、その筋肉質の体にぴったりと合う、黄金の線が入った明るいクロムの鎧を着ている。若い女性は、男性とほぼ同じクロムの鎧を身にまとい、彼の一撃一撃に持ちこたえる。まるで定められた演舞のような戦いで、二人とも一歩たりとも引くことはない。

2、3歩離れた所にクロークを纏った謎めいた姿がその戦いを見守っており、さしたる動きも無く、言葉も無く、ただ沈黙して立っている。 冷静に二人の一挙一動を評価しているのだ。

「ヴァレク(Valec)!」柔らかくも歌うような響きで、若い女性が対戦相手を呼びつけた。男が他の何かに気をとられているのを察知し、戦いを止める。何故かわからぬものの、ヴァレクは剣を下げ、練習相手の目の前で地面を見下ろしている。何か遠くのものに集中しているようだ。「どうしたの?」彼女が彼を覗き込む。

ヴァレクの目は固く床を見据え、手を大きく広げている。まるで地下のどこかから発せられるなにかを身に浴びているかのようだ。彼の綺麗な指先が震えていた。

「ティラス(Tilas)、誰かが近づいてくる」ヴァレクは彼の仲間に呼びかけた。「何かとても良くないものだ」彼は顔を曇らせ、唇を引き締めた。

それまで髪の毛一つ動かなかったクロークを纏った者が、二人に近づいた。クロークを引きおろし、美しくも齢を重ねた女性の顔が明らかになった。銀髪が揺れた。女性はヴァレクとティラスに良く似た鎧を身に着けていたが、剣は必要としないようだ。

「よろしい若者よ。戦いのさなかにも、周りに気を配ることを覚えたわけね。では、何が良くないのか言ってくれないかしら?」彼女は若い男に尋ねた。

師を見上げ、ヴァレクは答える。「足音です。我々の血を引くドラゴンが急いでいます。急いでいるだけでなく、風も引き起こしています。なにか問題があるようです」

「それだけ?」 彼女は穏やかにその探るような瞳と輝く笑顔で尋ねなおした。そしてその瞳と微笑みを若い女性に向けなおす。若い女性も彼女の友人に負けないよう全身全霊で集中している。

「何かを感じます。精霊のオーラ、ドラゴンの魔法、震えている、感じます」若いティラスの顔は、今少し誇らしげに見えた。だが、その誇りも長くは続かず、その意味がとても重たく彼女の肩にのしかかる。いまや、彼女の目にも仲間の若者と同じ憂いが見える。

「よろしい、ティラス、ヴァレク。二人とも上出来です。いつでも、寝ている時もその感覚を研ぎ澄ませられれば、よりよくなれるわ」年老いた女性が答える。

年老いた女性の体から、鉄が空中で火花を散らすような、静かに爆ぜる音が聞こえる。魔力のオーラは暗い青の色で、紫と銀の閃光が彼女の周囲に瞬き、うなりが彼女に新たな姿を与えていく。オフィディアンが目を瞬くよりも速い時間の間に、先ほどまで人間の女性であったそれは、巨大なプラチナムドラゴンの女長(Platinum Dragon Matriarch)となっていた。

完璧なまでの優美さを保つその角、蒼く輝くその胸のプレートは美しき宝石で彩られており、その兜に飾られた宝石によく似合う。頭から背中にかけた竜の襟にあわせて作られているのだ。肩は広く、4人の男性が乗れるほどだ――もし乗れるものならば、の話だが。

二体の若い竜も師にあわせてその姿を変える。その姿を人間に固定する魔法を解除するべく、適切な呪文を唱えるのだ。いまや、その真の姿、竜の姿を現した戦士たち。女性の巨竜には大きさ、麗しさは及ばないが、その師の後ろに控える二頭のプラチナムドラゴンの姿はやはり荘厳だった。竜たちは到着を待つ。

ヴァレクが予言したうなる風が、四頭目のドラゴンの出現とともに湧き起こる。この竜はティラスやヴァレクよりは大きいが、それでも女長ほどではない。古き雌竜にひとまず一礼してから、年長けた雄のプラチナムドラゴンは困惑した顔で話を切り出す。

「クリムゾンドラゴンたちが帰り道を見つけてしまったようだ」

沈黙が竜たちを支配する。「クリムゾンドラゴンたちが帰り道を見つけてしまったようだ」という言葉の意味を理解するまで、沈黙は続いた。そして一斉にみなその恐ろしい意味と未来を悟る。

「アエスタイロン(Aesthyron)様、どうすれば?」ティラスはその恐怖と憂いを顔に示し、彼女の師を名前で呼びかけた。

その三日月の形をした鋭い牙を覆う口が微笑み、アエスタイロンの目は伏せられ、頭が垂れる。巨大な年長者、アエスタイロンは、その静かな存在だけで若き竜に安らぎを与えた。皆、彼女の指導を待っている。

「古老(Elder)に相談する」その巨大な息を一瞬止めて、彼女は続けた。「いとしい若者たちよ。お前たちはこの地に長達が始めて舞い降りた時を知らない。またこの300年以上の間、今ブリタニアと呼ばれるこの地で、――まあいつでもそう呼ばれていたわけではないけれど――日々の訓練はしていても、お前たちの大部分は実際の戦いを知らない。もし強情なクリムゾンの同胞が、あの虚無(Void)を離れ故郷に帰るというのであれば、その理由はひとつしかないでしょう。この地を征服する気なのです。あの失われた従兄弟たちには、征服、支配、宝、などたくさんの動機があります。ブリタニアはいまだ豊穣の地だけど、クリムゾンたちは全く気にもとめず、目標達成のために彼らの前にふさがる邪魔な生き物を絶滅させてしまうでしょう」

ヴァレクの瞳はその言葉を聴いて瞬いた。抑えた怒気が彼の口からこぼれる「では、我が祖先の地は蹂躙されようとしているのですね」ヴァレクは一瞬詰まる。

「お願いです。彼らからこの地を護ってはいただけませんか?」若い女性が竜たちに歩み寄り、呼びかけた。そのか弱き女性は突然どこからともなく現れ、竜の巨体に囲まれても恐れ一つ抱いている気配が無い。その碧の黒髪は青と黒で織られたクロークに流れ、地にまで達する長さだ。彼女は竜たちの中心に立った。

「ブライシオン様(Lady Bryxion)……」 ティラスは何か確かめるかのようにその女性に呼びかける。
彼女は微笑んで言った。「ソーサリアに舞い戻ったクリムゾンの子らが使ったポータルは、まだ閉じきっていません」女性は微笑んだ。「クリムゾンのロード(Lord of the Crimson)が通り過ぎたので、いまでも少し開いているようです。私も、そのままにしておくつもりです。あなた方が何を決めるかは自由ですわ」

美しくも一礼すると、ブライシオンは影のように姿を消したのだった。


Platinum Dragon

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