急な雨に見舞われたミノック。
その一角にある『The Oak Throne』から響く泣き声は街の大通りにまで達していた。

「親方ぁ……。うぅ、ぼくがあんなものを拾ってこなければ……」
「いつまでも泣いていても仕方ないでしょ……。でも一体どうすれば……」
号泣するエリック(Eric)とそれをなだめようとしているコニー(Connie)。二人の師匠であるゴーディ(Gordy)は……包帯に包まれベッドに横たわっていた。

彼らに一体何があったのか？　実はトリンシックの建設現場で事件が起きたのだ。
突如湧き出した白いソレンによって建設現場は半壊。ゴーディも怪我を負ってしまった。
そもそも何故白いソレンがトリンシックに？　……原因はエリックにあった。
エリックがどこからか拾ってきて、建材として使ってみた蟻塚。その蟻塚から、ソレンが孵化してしまっていたのだ。




「……お前は良かれと思ってやったんだろ？　……ちょいと間違えちまったがな」
「親方！目が覚めたんですか！」
弟子二人が揃って叫ぶ。
「ふん、鍛え方が違うんだよ……それよりもだ」
弟子たちを制しゴーディが言葉を続ける。
「トリンシックの現場……お前らじゃ修復するのは厳しいな」
ゴーディは窓に視線を向ける。窓の外からは雨音が続いている。
「かといって、オレの怪我が治るのを待ってる訳にもいかねぇ。先方に迷惑がかかるし、店の信用にも関わる」

「……この前のアンケートの結果、覚えてるか」
「は、はい。一位はトリンシックで、以降はブリテイン西、デルシア、ロング……」
ゴーディの質問に戸惑いつつも、コニーは即座に答える。
雨音はまだ続いているはずなのだが……、その瞬間には雨音が消えた様な気がした。
少なくともエリックとコニーの二人には。

「お前らが、オレの代わりにロングで建設し直すんだ」

一瞬の静寂。息を呑むエリックとコニー。ゴーディは一人頷いている。
「あんな事件を起こしちまったんだ、お前らだけじゃ街の付近での建築認可は取り辛いだろうしな」
「そ、そうじゃなくて！なに言ってるんですか親方！」
「そうですよ親方！　私たち……私にそんなことできるわけ……」

なおも言いつのろうとする弟子たちを制し、ゴーディは弟子たちに語りかける。
「エリック、お前の腕前は相当なものだ。オレが認めてやる。お前ならやれる」
「コニー、お前が悩んでいる事はわかる。だがな、お前はお前だ。お前の力を信じるんだ」
弟子たちを優しく見つめるゴーディ。
「二人で力を合わせるんだ……」
そう言い終えたゴーディのまぶたが静かに……閉じられて……。

「親方あああああああ！！」










「耳元で喚くなガキども！！　こっちは怪我人なんだ少しは休ませやがれっ！！」
目をひん剥かせてゴーディが怒鳴る。
「とっとと行って来い。……お前らにはやる事があるだろ？」
そう言ってゴーディが弟子たちに背中を向ける。するとすぐに寝息が聞こえ始めた。

「親方にここまで言われちゃやるしかないよね。わかった、ぼくはやるよコニー。」
「そうね。親方は私たちを信じて任せてくれたんだもの」
エリックとコニー、二人の顔には先程までとは違う強さがあった。
二人はうなずき合うと静かに部屋を出て行った。

弟子たちが出て行った後の部屋。
「ふ･･････ヒヨっこどもが大きくなりやがって。だがな、まだまだ若造どもに負けはせんぞ」
つぶやくゴーディの口元がニヤリと歪められる。

通り雨は過ぎ去り、窓の外には青空が広がっていた。