「……なんですこの紙っきれ」
「その原稿用紙はBNNさんとこに、この投票箱はトリンシックに設置して来い」

ぼくの名はエリック(Eric)。
ここ『The Oak Throne』で大工の修行をしている笑顔のステキな美青年だ。
そんなぼくに変な紙っきれと箱を押し付けてきたのが、師匠のゴーディ(Gordy)親方。

「……なんでぼくが」
「お前が昨日提案したことだろうが。お前が行くのが道理ってもんだ」
……昨日？……たしか親方が依頼主と打ち合わせしてきて……。
でも建設場所が上手いこと決まらなかったとかで、ぼくになんか聞いてきたんだよな。

―『お前はどこがいいと思う？』
―『そんなこと聞かれてもわかんないですよぅ。ぼくに聞くくらいなら冒険者にでも聞けばいいじゃないですか』
……え、まさかそのこと！？

「思い出したか。思い出したところでとっとと行って来い」笑顔でぼくの背中を押してくる親方。
「そんなぁ。ぼくじゃなくてもいいじゃないですか」ぼくは逃げる時間をかせごうと……
する間もなく店の外に放り出されてしまった。こんな暑い中放り出すなんてひどい……。




「おう、やっと帰ってきたか……また随分とかかったな」
「暑い中遠くまで行ってきたっていうのになんたる言い草か！　そうは思っても口には出さないのが紳士と言うものだ」
「口に出てるっての……」
なんだか親方がやけに疲れた顔をしている。仕事のしすぎだろうか。お大事に。

「はぁ……それで、ちゃんと設置してきたんだろうな」
「ちょっと道に迷いましたが、冒険者さんに案内してもらって設置して来ましたよ」
「道草しなかっただろうな」
「……」
「なんで口ごもる」
親方は一層疲れたような顔だ。暑さのせいかな。お大事に。

「まぁ……いい。冒険者さんには礼を言っただろうな。誰にも迷惑かけてないな？」
「大丈夫ですよぅ。親方は心配しすぎです。ほらほら仕事仕事」
親方はまだ何かを言いたそうだったけど、ため息を吐くと奥に引っ込んでいってしまった。

……後日、酒場から請求書（ぼくの飲み代）が送られてきて親方に怒鳴られたけど、それはまた別の話。