「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか？」

陽光降り注ぐMinocの一角にある大工店、『The Oak Throne』からその声は聞こえる。
正午を過ぎたとはいえ日差しはまだまだ強い時間帯。
軒先の掃除中に来客があったのだろう、ほうきを持ったままの若い徒弟の額にも汗が浮かんでいる。

「はい？　商品の購入じゃなくて……仕事の依頼ですか。では店主がお話を伺いますのでこちらでお待ち下さい」
ほうきを脇に置き客に席を勧めた後、若い徒弟は店の奥に声をかけた。
「親方ー！　お客様です」




「うーん……マフィンいっぱい……うへへへへ……」
幸せそうな……本当に幸せそうな顔で眠る青年。
その青年に拳が振り下ろされる。小気味よくも鈍い音が響き、同時に怒号も響く。
「コラ、エリック(Eric)！　なに居眠りしてやがる！　起きろ！」
エリックと呼ばれた青年のまぶたがうっすらと上がる。

「あれ……ぼくのマフィンどこ……？」
まだ寝ぼけていた。口元にはよだれも垂れている。
決して弱くはない勢いで頭を叩かれたはずなのだが。

「いつまで寝ぼけてやがる！　とっとと目ぇ覚ましやがれ！」
「あー……ゴーディ(Gordy)親方おはようございます。どうかしました？」

エリックはのほほんとした顔でゴーディと呼ばれた男性に向き直る。
振り下ろされた拳にも怒号にも全く堪えた様子がないのは……彼の性分なのか慣れているからなのか。おそらくは両方とも、だろう。

「“どうかしましたか？”じゃねぇ、この野郎！　仕事の依頼だ。すぐに資材の確認と発注にかかれ！」

ゴーディの剣幕にようやく跳ね起きるエリック。また怒鳴られては適わないとばかりに慌てて店を飛び出す。
その後ろ姿を見送るゴーディはといえば……呆れた様子で溜め息をもらしていた。

「まったく……見積書も見ないでなにがわかるってんだか」