暗闇からのはじまり -Despise Invasion-
彼は疲れていた。 その皮革を思わせるような陽に灼けた顔や見るからに曲がった背中から、彼が肉体労働者であることが容易に連想できた。サーペンツ スパイン山脈で鉱石を捜し求める生涯を選んだ者には、疲れ果てて骨と皮になっていいる者が多い。 ジェロルド ティギンズ(Gerold Tiggins)も、その例外ではなかった。 しかし疲れてはいたが、今の彼には休んでいる暇はなかった。 年老いたティギンズにとって、興奮するような出来事はそうそうあるものではない。 あるとすればヴァロライト(valorite)の鉱脈を探し当てることくらいだろうか。彼は未だにヴァロライトを掘り当てたことはなかったが、おそらく心躍るような興奮に違いないだろうと思っていた。 しかしその貴重なヴァロライトの事ですら今日の彼の心からは忘れられていた。彼はデスパイス(Despise)の奥深くの岩石層に埋もれているのを見つけた不思議な物体に心を奪われていたのである。 二週間前、小さな地震によってそのダンジョンの深部でいくつか連続した落盤が起こった。乱雑な積み重なった岩をかきわけて進む内、ティギンズは見なれない岩の塊が露出しているのを見つけた。 彼が知る限り、地震の後にここまで深く分け入って来た者は誰一人としていないはずであり、この宝物は第一発見者の自分の物にできるだろうと彼の胸は躍った。 彼には見つけた物が何であるかを理解するだけの知恵があったわけでもなく。また運命は、彼にそれが何であるかを推測させるほど寛大でもなかった。 ティギンズがやっとのことで邪魔な岩を削り去ると、そこには異国風の素材で作られ、妖しく光るシンボルが彫られた刀が姿を見せた。彼がその刀に手を伸ばそうとしたその時、背後の闇から重い足音が聞こえてきた。 幕はあっけなく下ろされた。 ティギンズが振り向いた瞬間、空中で斧が空を切り、彼の持っていたランタンの光が刃先できらめいた。その刃が彼のやつれた身体を切り裂く直前のことだった。 彼の意識が闇に包まれる最期の時に見たものは、斧を掲げたリザードマンの顔だった。 その顔はすでにティギンズのことなど忘れてしまっていた。その代わりに、まだダンジョンの壁に半分埋まっているMystic Swordをとりつかれたように見入っていた。 ジェロルド ティギンズは、やっと「休む」ことができた。