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忍び寄る異国の影

投稿日:2005年1月12日
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全シャード
「評議会のエレイン(Elain Bayfery)女史が市民の協力を募っている!」

 タウンクライヤーの叫びを聞きつけた僕は大急ぎで鎧をつけ、剣を手に持ってキャッスル・ブリタニアへと向かった。キャッスル・ブリタニアでは既に僕と同じように呼びかけに応じ、何人かの冒険者達が集まっていた。
 僕は同じベスパー出身の冒険者達がいるのに気付いたので、彼らと軽く挨拶を交わしていると、僕達と同じように鎧を着込んだエレインと、その後ろから黒いローブに身を包んだ人が玉座の間に姿を現したのに気付いた。
 
 僕達の視線を集めながら、少し難しそうな顔をしてエレインは話をし始めた。
 現在行方がわからなくなっているデュプレ卿(Sir Dupre)の居場所を知る謎の人物との密会がその黒いローブを着たオドリック(Odric)という人によって設定されたのだそうだけれど、その密会に際して僕達をその警護にあてたい、と。
 ・・・まぁ簡単に言えばそういうことだった。大して難しそうな話じゃないし、僕達は喜んで受けることにした。
 エレインはその密会にレディ・イヨナ(Lady Iyona Kondo)も連れて行くべきだと言っていたけど、オドリックは時間が無いからと先を急いだ。
 エレインはちょっと残念そうな顔をしたけど、遅れちゃいけないと思ったのか、それ以上レディ・イヨナのことには触れないでオドリックの出したゲートをくぐった。僕達も続いてゲートをくぐった。

 ゲートをくぐって着いた先は、ジャングルの中の廃墟。ボロボロに壊れた椅子やら元は本だった(かもしれない)紙くずが突っ込まれた本棚やらがあったんだけど、僕はこんなところで人と会いたいって言う人の気が知れないと思ったよ。
 エレインも同じ事を思っていた様子で、オドリックに文句を言っていたけどね。

 どれくらい待ったかな。エレインの口調には苛立ちが混じり始めて、オドリックも不安げにその辺をうろちょろし始めた、その時だった。急に見たことも無い獣が襲ってきたんだ!
 みんな自分の身を守る為に剣を抜いたり矢をつがえたりしたけど、とにかくヤツらはすばしっこいのなんの!
 あちこち走り回っては右に左にと僕達冒険者に牙を向く始末で、やっと倒したと思った頃には僕達も無傷じゃすまなかった。
 それで、エレインはそれはたいそう怒った様子で、
「これが密会の相手なの?」
 ってオドリックに詰め寄ったけど、オドリックはそんなこと気にもしても居ないみたいで、
「・・・もう少し付き合ってもらう必要があるようだな」
 なんて言ってゲートを開いた。

 エレイン含め僕らは不承不承ゲートをくぐると、今度はユーのはずれに着いた。
オドリックは後ろを振り返ろうともしないでさっさと歩いて行って、僕達は黙ってその後をついて行くしかなかった。道すがらオドリックが、僕達が向かっているのは今日会うはずだった人の家だと教えてくれた。なんでも、ものすごく用心深い人なのだそうだ。
 ・・・あんなところを指定してくるぐらいだから、間違いなく用心深いのだろうけどこんな大人数で押しかけたらそれこそさっさと家から逃げ出しちゃってるんじゃないだろうか・・・。
そんな事を考えながら歩いていたら程なくしてその家に着いた。

 予想通りだったけど、その家には誰もいなかった・・・っていうかむしろ誰ももう住めないだろうぐらいに荒らされていた。本棚やら引き出し、ベッドにいたるまでそれはもうぐちゃぐちゃになっていた。何かを探すために荒らしたみたいだ、床板まで剥がした痕があった。僕はこいつは困ったことになったと思った。
 「それにしてもどうしてこんなに・・・」
 と、小さな声でエレインがつぶやいたのが聞こえた。
 ・・・ふと、その時気が付いた。あれだけ用心深い(って言われてる)んだから、他に隠れ家があるんじゃないか、って。
 エレインに話しかけるのは緊張したけど、もしかしたらって思って聞いてみた。
 「私もそう思ったところでした。もしかしたらこの家にまだその手がかりが残されているかもしれません。みんな、手遅れにならない内に辺りを探してみてください!」
 エレインは、今度こそ緊張した面持ちで僕達に命令を下すと、彼女自身もオドリックと一緒にこの家の中を捜索し始めた。

「この像は重くて動かせないぞ!どうなってんだ一体!」
 僕らの仲間の一人がそう叫んだ。確かに机の上にあるペガサスの像は重くてとてもじゃないけど動きそうに無い。
「そんなに重くちゃ動かすなんて無理だよ、ほっときな」
 そう別のヤツが言ったその時、*ごろごろ*と何かが動くような音がし始めた。
「オイラじゃないよ!別になにもいじっちゃいない!」
 そばにかかってる絵の近くにいたヤツが急に慌て始めた。・・・だれもそいつの事なんか気にもかけてなかったのに。
「ねぇ見て!」
 像のそばにいた、魔法使いらしい女の子が今度は声を上げた。その声を耳にして彼女の方を見ると、さっきどうしても動かなかったあの像がゆっくりと上空へと上がっていくところだった!*ガコン*という音と共に僕達を見下ろすようにしてペガサスの像はその羽を休めたようにして止まった。そしてそのペガサスの像が乗っていた机の上には茶色い表紙の小さな本が横たわっていた。
「おい、像がまた降りてくるぞ!」
 誰かの声が聞こえたと思ったとたん、オドリックが素早くその本を机の上から取り上げ、エレインに手渡した。そしてペガサスの像は再び机の上にその羽を下ろした。

 僕はエレインの開いた本を覗き込むようにしてみた。すると、そこにはこう書かれていた。


≪サー・デュプレ、そしてブリタニアを心から愛する人がこのノートを発見するよう切に祈ります。≫
≪私の身に危険の訪れを感じ、直ぐに身を隠す事にします。≫

“蜜の町に輝く朝日の向こう側”
“己を献じて血を流し アンクが見つめるその先に”

“森の民の 尊い命と引き換えに”
“鎧となり、衣となりて 機はいらぬ伸ばせば足りる”

“ああ小さき住まい達よ”
“森とともに生きるものに たったひと時のその安らぎを”


 そしてそこにはとても綺麗な字で「マラベル(Malabelle)」とサインが記してあった。マラベル・・・どこかで聞いた気もしたんだけど、その時は思い出せなかった。
 それに、僕の横にいた軽装のローグらしい男が
「これは暗号だな、場所を表してるに違いない」
 と、自信たっぷりに言い始めたものだから、そっちに気を取られてしまって。
「どうしてそれがわかるのですか?」
 エレインはまるで助けを求めるかのようにそいつに聞いた。
「蜜の町、これは間違いなくベスパーのことだろう。朝日の向こうとは東のことだ。つまり、最初の段はベスパーの東を指していることになる」
 確かにそうだ、そうすると次の段は・・・
「献身の神殿よ!献身のアンクは血を流しているわ、そして南を向いているはずよ!」
 さっきの魔法使いの女の子が叫んだ。
 なるほどその通りだ。つまりベスパーの東で献身の神殿の南ってことになる。
「革だ。」
 今度は僕の後ろにいた大きな弓を背中に担いだレンジャーが今度は声を上げた。
「革は動物、つまり森の民の命と引き換えに得られるものだ。そして革は織り上げるものではない。伸ばすことによって鎧にもなれば衣服ともなる」
 ・・・わかった!
「革取引所です!エレインさん、皮取引所ですよ!」
 僕は自分でも驚くほど大きな声を張り上げていた。
「ベスパーの街から東に行くと革取引所の小屋があるんです!そこは狩人達が休んだりできるようにもなっています!」

「・・・その場所に間違いなさそうですね。あなたはどう思う?オドリック」
 エレインは僕の目をまっすぐ見つめて、彼女のそばにに立っているオドリックへとその目を向けた。
「・・・行ってみる価値はあるだろうな。少なくともここでおとなしく待っているよりはましだろう」
「そうですね、急ぎましょう!献身の神殿までゲートを開きます!」
 エレインは、さっきオドリックが開いたのと同じ青い色をしたゲートをその場に開いた。僕達は迷うことなくそのゲートに飛び込んでいった。

 献身の神殿から森の中を走り続けてみんな息も絶え絶えになりかけた頃、ようやくその小屋が見えてきた。
「あそこです!あの小屋です!」
 小屋に着いた僕は、そのまま息を整える暇もなく、動悸も荒いまま3軒ある小屋を一軒ずつ見て回った。
そうして、3軒目の小屋に僕達が入った時、僕らが目にしたものは飛び散る血の海の中、無残に机の上に横たわる女性の死体、そして机の向こう側に立っている鎧を着た男だった。
 その鎧はちょっと変わった作りをしていた、見たこともない色と形をしていたね。

「遅かったな。この通り、この女は始末した。ハッハッハ!」
 その男は小屋に入ってくる僕らを見るなり、それは愉快そうに笑った。
「これは・・・!あなたは誰ですか!あなたが彼女を殺したのですか!」
 エレインは感情を抑える事が出来ないくらい怒っていたようだった。
「本当ならお主から名乗れと言いたいところだがな。こちらから名乗ってやろう。私の名はベロ・オンダリバ(Belo Ondariva)だ」
 その男は威厳のこもった声でそう答えた。
「こそこそと、嗅ぎ回っていたネズミを殺して何が悪い?お主らはネズミを殺すのにいちいち決闘を申し込むのかね?」
「私はこの逃げ隠れしていた女と同じようにうぬぼれと慢心に満ち溢れているお前達を切り捨て、このブリタニアをそしてソーサリア全てを手中にするだろう」
「生憎、私は多忙だ。お前達と違ってな。代わりに私のかわいい召使達に相手をさせてやろう」
 そして男はリコールの呪文をとなえると、さっさとその場から消えていったんだ。
「待ちなさい!待ちなさ・・・」
 エレインの呼び止めも空しく、僕達が途方にくれようとしていたその時、小屋の外で悲鳴が聞こえた!
「獣だ!またあの獣だ!」
 僕はまた剣を構え、雄叫びと共に小屋の外へ飛び出した。



 戦いの後、僕達はさっきの小屋へ戻った。
 マラベルの死体にそばにあった毛皮を掛けるオドリックにエレインが聞いた。
「マラベル・・・もしかして、あのマラベルなの?」
「そうだ、そのマラベルだ・・・トリンシック奪還の後、身を潜めていたのだ」
 マラベルとトリンシック奪還、それを聞いた瞬間、僕の頭の中でマラベルの謎が解けた。
 マラベルはかつてミナックスの手下だった。だけど、ミナックスの手に落ちたトリンシックを、デュプレ卿が奪還するべく戦いを行った際にマラベルはミナックスを裏切り、さらにはデュプレ卿に加担してトリンシック奪還のきっかけをつくった人だ。ひっそりと隠れ住んでいたのはミナックスの怒りを避ける為だろう。

「さっきのはミナックスの手下かしら・・・」
 エレインは少し考える様子で言った。
「それはわからんが、十分にそれもあり得るな。しかし妙な鎧を着けていた」
「似たようなものをこの間の海賊の襲撃の時に見たわ。きっと繋がりがあるのだと思う」
「ふむ、意外な繋がりがあったものだな」
「彼女の死は無駄にはしません。・・・急いで調査を進めなければ」



「・・・帰りましょう、ここには後でガードをよこしますから」

 エレインの出したゲートはいつもと同じ、青い色をしていた。
 僕達は後ろを振り返らずに、そのゲートを通り抜けた。

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