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投稿日:2001年10月12日



"主"の暗い居室は、部屋の反対側に現れたムーンゲートの鈍く青い光にゆらゆらと照らし出されていた。ムーンゲートからは漆黒の外套に包まれた人影が次第に輪郭となって現れ、一人のコントローラーがよろめきながら出てくると、前かがみとなり、ずたずたになった神秘のローブに隠された膝に手を当てて立っていた。

『フォゼフ、報告を聞かせてもらおうか』主の声が部屋の暗闇の部分からこだました。

フォゼフは両手についた血を破れたローブの端で拭き取ったものの、立っているのがやっとの状態だった。『ご主人様、外部の者達が忍び込んでくる為のトンネルをついに発見いたしました』

ムーンゲートから、転がる鉱石のような音をしたゴーレムの足音が響いてきた。次の瞬間、ゴーレムは姿を現すと、躓くような奇妙な間隔で一歩一歩その足を進めた。その身体を覆う岩でできた外殻の隙間からは、ゼンマイ仕掛けの人形のそれのように、歯車やロッドなどの部品が見えていた。強力そうな腕はガーゴイルの死体を抱いていたが、その後ろでムーンゲートが消えたとき、ゴーレムは死体を無造作に床に放り出した。

黒い外套の男は前へ出ると静かに死体を見下ろした。『背教者…』

『未完成のトンネルエリアをパトロール中、背教者の一味がそこにいたようです。恐らくこの者はパトロールの目を盗み、わずかな合間に掘削作業を進めていたのでしょう。』フォゼフは膝の痛みに顔をゆがめた。足を置いた床の周りには血が溜まり始めてていたが、フォゼフは意識的にそこに視線を向けることなく報告を続けた。『死体を見つけたとき、外部からの一味は驚いて反撃に打って出たのです。我々のパーティーも殺され、ゴーレムは粉砕され、ここに残ったゴーレムもご覧のように修理が必要な有様です。』

その言葉に反応するかのようにゴーレムが小刻みな機械音を立てると、次第にその音は不快なほど大きくなっていった。音が突然に止まると、ゴーレムのグロテスクな身体は腰のあたりからばらばら崩れ始め、床には鍋とフライパンのガラクタのような山が築かれていた。頭部は冷たい床の上で回りつづけていた。フォゼフはそれを見て次のように発言した『少なくとも、パーツだけは使えるようです…』

人影はゴーレムの残骸を少しの間に見分した。ゴーレムの外殻は、まるで何千もの刃で切り刻まれたかのようだった。『ブレードスピリットだ』

フォゼフは頷いた。『外部の連中はその唱え方を知っています。現状、我々の作成方法では、ゴーレムの装甲はこの攻撃にそう長く耐えられません。』

『あってはならぬ事だ』黒い外套の人影はうなりをあげた。『ゴーレムがブレードスピリットごときに耐えられなければ、都市の防衛には役に立たん。私は外の連中を知っている。この弱点が広まれば、奴等はさらに多くの魔法使いを差し向けて来るだろう。都市を守らずにいれば、より多くの使役ガーゴイルを失う事になる。直ちにゴーレムの改造に着手せよ。』

フォゼフは頭を低くし、ゆっくりと答えた。『恐れながら閣下、閣下のご賢察に疑問を差し挟むつもりはありませんが・・・もしゴーレムを強化する為により多くの資材を費やせば、都市の防衛部隊を作成するには資材が不十分になります。そして、奴隷ガーゴイルの数は外の一味が攻撃してくる度に減少しています。ガーゴイルがいなくては十分な資材の収集が出来ず、ゴーレムの作成を継続できないでしょう。』

『命令の如くせよ、フォゼフ。』主の声は、部屋の四方で小さな光が白く瞬いた時、その影が最も濃い部分から響いた。『必要なだけの資材を使い、ゴーレムが召喚物を消去できるよう強化するのだ。都市を守る手段は他にもある。』

人影は声の方へ振り向いた。『どんな方法がある?』

『フォゼフ、お前は使役ガーゴイルの一団を生産センターの中の小部屋に連れて行くのだ。奴等の鎖を外せ。』

『ご主人様、奴等の鎖を外せと仰るのですか?』フォゼフは驚きに平静を取り戻せずに、とまどいながら言った。『ご主人様、鎖は彼らの魔法能力を封じています。彼らの鎖は決して解いてはならず、安全の為、鎖につながれていない使役ガーゴイルは即座に殺せ、とご主人様は私達に仰いました。』

『使役ガーゴイルは都市を守る為に魔法を使う必要があるのだ、フォゼフ。』主はうなりの様な声で言った。

外套を着たその人影は静かに部屋を歩きながら、ゆっくりと言った。『危険は伴う。しかし、人間に対しては非常に効果的であり得るのだ・・・』

『使役ガーゴイルがでございますか?』フォゼフは驚き、足元の出来た血だまりに足をとられそうなり、苦痛にあえぎながら言った。『奴等は外の連中を押し止められる程強くはありませんご主人様。魔法を使おうともです。』

闇に包まれた外套は、部屋の中をフォゼフに向かって飛び上がり、腕を飛ばして、手の甲でコントローラーを床に叩き付けた。眼前で揺らめく光の中、フォゼフは主人の一人が自分の上に静かに佇んでいる姿を見た。『お前は十分考えを述べたな、フォゼフ。これ以上の意見は不要であろう。』フォゼフは強烈に打ち付けられた為に流血し、暖かい血が頬を伝うのが感じられた。

『行け』外套を着た人影は言った。『都市が守られる様、使役ガーゴイルを用意せよ。』人影は主の声がした方へと戻っていったが、一旦立ち止まった。『ああ、フォゼフ、お前の傷の手当てもするのだな。血が出ているぞ。』

『はい、閣下。』フォゼフは歯ぎしりして答えた。彼はよろめきながら部屋を出て行き、血の足形だけが残されていた。

フォゼフが去るとすぐ、黒い外套の人影は再び話し出した。『使役ガーゴイルを強化する事が、本当に良い考えだと思うか?奴等にそんな力を与える事は危険を生む。今のガーゴイルは非常に脆弱だから、その処置に耐えられはしないだろう。』

『実験において、いくらか損失を出す余裕はある。処置中に死ぬガーゴイルからは有益な情報が得られる事だろう。ただ、その手順が既にほぼ完璧である事は、お前も同意する所であろう。』カチカチ、ブーンと言う機械音が一瞬強くなった。

闇に包まれた人影は佇み、動かなかった。『ああ、本当にな。』

主は続けた。『強化すれば、ガーゴイルは十分都市内で人間に対抗できるだけ強くなるだろう。我々の部屋が見つからなければ、奴等を操る私の力は絶対だ。ゴーレムの改造は、ブリタニアへの攻撃をより効果的にするだろう。勝利は依然として手堅い。』

『そうだとは思うが』人影は答え、彼が振り返った時、外套は彼を取り巻いて浮き上がった。『私はそれが絶対の物となるまでは満足できないのだよ。』

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