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血塗られた鉱石

投稿日:2000年8月21日

料理人Credil
全シャード

周りに言わせれば、その日の俺は単についていなかったらしい。ある者は俺の気が動転していたと言い、ついには怪しい呪文を教えようとする者さえも出てきた。だが、たとえそれが「運」「狂気」「呪い」なんかのせいであっても、俺はMinocの鉱山で目にしたあの事件以来、二度と鉱山に近づく気にはならん! 周りに言わせれば、その日の俺は単についていなかったらしい。ある者は俺の気が動転していたと言い、ついには怪しい呪文を教えようとする者さえも出てきた。だが、たとえそれが「運」「狂気」「呪い」なんかのせいであっても、俺はMinocの鉱山で目にしたあの事件以来、二度と鉱山に近づく気にはならん!

採掘師になってから37年、その道のプロと呼ばれてもおかしくはないだろう。たまには、見習いにも取引のコツや優れた鉱脈を見つけ出す技を伝授することだってある。一人前の顔をしたそこらの鉱夫には思いもよらない鮮やかな取引だってできる。つまりだ、採掘について何かを知りたいと思うなら、この俺をおいて他に聞くやつなんざいないということだ。

これまでにも時たまそうしてきたように、その日も俺は鉱石を掘る場所を探していた。モンスターに襲われることを怖がり、いつも同じ場所でしか掘らない若い鉱夫たちとは違って、俺はミナックス(Minax)による占領が行われてからも、昔と同じようにこうしてぶらつくのが好きなのさ。純粋なバロライト石を求めて一晩ほっつき歩いたあげく、飛び跳ねるウサギをまるでJou’narでも見たかのように恐れた数人の若い鉱夫が俺の脇を通り過ぎて行ってもな。

幸いにも、その日はアンデッドの群れに遭遇するようなことはなかったが、代わりに忘れることのできないその事件が起きた。背の高い草むらにはガーゴイルが横たわっていた。しかし、リコールすることも忘れるほど俺の興味を引いたのは、見るからに残忍に放置されたその身体のむごさだった。何者かが飽きるまで、あるいは死に至らしめようとガーゴイルをなぶり続けたようだ。俺は数年前に実際人が殺されるのを見る以前からも、ガーゴイルに愛情などは持ち合わせていないし、もしそれが元気であったならば当然のごとく俺に襲い掛かるだろうことも知っていた。もし、ヒーラーに見せたとしても奴に残された道は「死」だけだったに違いない。だが、ちょっとした好奇心、あるいは哀れみだったのかも知れない。俺は膝をついて奴の様子をうかがった。

顔を近づけると奴は俺の存在に気付いた。人間のものとは異なるその生き物の顔には、明らかに恐怖と苦痛の表情を見て取ることができた。さっきも言ったように俺はモンスターに対する愛情はない。けれども残酷さを愛することもなければ、この生き物がこれ以上の苦痛を伴って死んでいくのを観察する趣味など持ち合わせてもいなかった。

『すまんが俺は治療をするだけの呪文を知らないんだ…』俺は何か役立つものがないかとバッグをかき回してみた。常に旅をするときには軽装だが、それでも喉の渇きに息絶えそうになった戦士の冒険談から、1日分の水だけは持ち歩いている。俺は水をそっと彼の口に注いだ。

奴は何度か弱々しく水をすすると、その目からわずかに恐怖が和らぐのが感じられたが、苦痛からは開放されることはなかった。普段には珍しくポーションをバッグに入れたことを思い出した俺は、再び持ち物を引っ掻き回した。そのとき、ガーゴイルは身じろぐと手を地面のバックパックに延ばし、ゆっくりとツルハシをつかんだ。小さな黒い爪で冷ややかなツルハシの金属部分を叩くと、樽の中で小石を転すかのようながらがら声を発し、同時に俺に微笑みかけた。

俺はその意味を分かりかねていたが、ガーゴイルが鉱石掘りに興味があるとは思えない。それでも奴はツルハシを指で叩きつづけて何かを合図しているのだ。

『これは…これは鉱石を掘るための道具だよ…』俺は地面から小さな石を拾い、ツルハシを使って叩く真似をしてみせた。奴は微笑むと、驚いたことに自分のバックパックからツルハシを出して見せたのだ!そしてそのツルハシで俺と同じように小石を叩く仕草をしてみせると、その微笑みはさらに笑顔へと広がった。

再び奴は声を出した。前より小さく、しかしそれは喉のきしりと咳きこみの中間のように深く荒れていた。突然、奴の目が見開かれると大きくあえいだ。俺は死の瞬間をそれほど多く見たことはなかったが、それでも目の当たりにしているものがそれに間違いはないと理解できた。そして、身動きせず横たわったその「掘り師」に別れを告げることが精一杯であった…。

死体が荒らされないよう、大きな岩陰に運ぶ間、俺は震えながら軽いめまいを覚え、そして奴の荷物を開いたときには奇妙な友情が芽生えていたのを感じた。何本かのツルハシと消耗品のたぐいを自分の荷物に補充した。奴もまたこの場所に鉱石を掘りに来ただけなのだ…。

『ほんの少し前に何者かに襲われたのだ…』

もし、この声が頭の中に響いていなかったなら、俺はきっと今でも鉱夫をしていただろう。

ごつごつとした岩肌の間から、鉱石の匂いを嗅ぎ分けるのにさほどの時間はかからなかった。俺は空気を吸い込むと、トーチに火を灯してゆっくりと鉱山の入口をくぐった。37年間も採掘をしていれば、例外なしに鉱脈の匂いを嗅ぎ分けることができるようになる。しかも、俺のようなエキスパートなれば、鉱石の種類だって嗅ぎ分けられる。そして今回はブロンズ石だった。よほど優れたブロンズ鉱脈でも大金をつかむことはできないが、それでもある程度の利益を出すことはできる。

俺はツルハシを何度か振り下ろしたところで、歓喜と嫌悪の2つを掘り出すことになった。膨大な鉱脈からいくつかの金塊が姿を現したのだ。もちろん金塊は歓喜に値するが、ブロンズを精錬しなければならないことが嫌悪に値する。ガーゴイルの死は俺を動転させ、この数年で初めて嗅ぎわけの判断を誤ってしまったようだ。俺は自嘲するように笑い、店を買えるほどの金塊をみつけながら、なぜブロンズを持ち帰ろうとしていたのだろうかといぶかった。

『ブロンズを精錬する意味があるのか?いいじゃないか、引退できるほどの金塊が目の前にあるのだから!』

俺は採掘師としての本能に身を預けながら岩を掘り続けた。1時間もすると十分な量の金塊もたまり、喉の渇きを覚えた。ツルハシを金鉱脈に突き刺して、水の容器を手にふらふらと夕暮れのどきであろう表に向かって歩き始めた。

暗闇から出ようとしたまさにそのとき、それが聞こえてきた…。そして何かの気配…。小さな鉱山の中に何かが存在し、それが確実に俺の後ろに迫ってきている!俺が手にしていたのは水の容器だけ、他の荷物は鉱山の奥に置いてきてしまった。大きな足音のする方向へ身体を向けると、トロールの頭ほどの大きな何かが俺の身体を夕闇の中へ押し出した!

その勢いと力に自失呆然としながら、俺は目を開いたが目の前にいるその大きな何かに視界を遮られていた。手と足にに見える部分があり、人間にも似たそいつは、夕暮れの光の中にまばゆく輝いていた。俺がモンスターに詳しくなければ、アース・エレメンタルと見間違っただろう。しかし、これほどまで金色に光を放つエレメンタルを目にしたことは、かつて一度もなかった。

鉱山から走って逃げる俺の目には、すばやく流れ去る地面しか見えなかった。俺の掘り出した金塊が襲い掛かってきたのか?あの鉱山に封印された古代の悪魔でも蘇らせてしまったのか?殺されたガーゴイルの呪いか?それとも、俺は単に気がおかしくなってしまったのだろうか?

率直なところ、俺にはよくわからない。たった1つ明らかなことは、俺はあれ以来鉱山に近づいてはいないということだけだ。俺達の生きる古代からのこの文明には、理解できない謎が眠っているのだろう。しかし、俺はその正体をこれ以上知りたいとは思わない。採掘は確かに俺の生活の糧だった。けれどもそれ以外にも日々の食事を用意できる方法はある。今の俺はパンを焼くことで生計を立てている。さあ、悪いが明日までにウェディングケーキを用意しなければならない。これで失礼しよう。

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