禅都へ戻り、再び弟子たちの指導に明け暮れる毎日を過ごしていたキヨ（Kiyo Mikaze the shaman）は、あることに気が付いた。

「ない！　ないない！　いったいどこへいったんじゃ！？」

指導そっちのけでわめき立てるキヨを見て、弟子たちは怯えた表情を浮かべながら、彼女のことをただ眺めていた。次第に落ち着きを失いざわつき始めるその場に、一人の若い女性が音も立てずにスッと現れた。彼女はその場にいる弟子たちに向け、静粛を促すように手を振り、依然として大声でわめきつづけている老婆に話しかけた。

「先生、どうされたんですか？」

「ないんじゃ！　あたしの鉄扇がっ！　お気に入りじゃったのに……あれがないと、お主らの指導もできんわい」

「それは困りましたね。たしか……先日、ブリタニアへ出発されるときには、お持ちでいらっしゃったと思いますが……」

「うむむ……たしかに。冴えとるの、お主！　ということは、ブリタニアへ忘れてきてしもうたということじゃな！」

「確実にそうとは申し上げられませんが、その可能性は高いかと」

「きっとブリタニアじゃ、そうに決まっておる！　あれがないとお主らの指導にも支障を来すしのう……うむ、あたしゃこれからちと出掛けてくるわい。あとのことはお主に任せたぞいっ」

「あっ！　先生、ちょっと待ってください！」

キヨは、近いうちにまたブリタニアを訪れたいと思っていたので、こんなにも早くブリタニアへ行く理由ができたことは純粋に嬉しかったのだろう。弟子の制止も聞かず禅都を飛び出したキヨは、再びブリタニアの地に足を踏み入れた。

「あとは、鉄扇が見つかれば万々歳じゃな……」