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前触れ - 1

投稿日:2011年2月25日

「ご気分はいかがですか?」ウスカデシュ(Uskadesh)の声でザー(Zhah)は思考を中断された。

失望の表情をあらわにし、心地よいがトゲを含んだ低い声でザーは答えた。「見てのとおりよ」

女王の執務室は音がよく響いた。テルマーにおいては、―民の厳格な道徳と儀式に合わせ―快適と言える場所はほとんどない。だが、ザーはしばしばこの場所にこもる必要性を感じるのだった。今は足元の深紅の絨毯の感触を楽しみたかった。戦いと死の伝説が織り込まれたタペストリーにもたれかかってみたいと思うこともよくあった。

大理石でできた、職人手作りの遺体安置台。今日一日、それが彼女の心の中に浮かぶあらゆるイメージをずたずたに引き裂いた。気高き女戦士が最後に眠る場所は、おびただしい暗い水と闇に浮かぶ一片のコルクのようだった。丹念な彫刻を施された白い石から、黒いさざ波が広がっていく……。そして時々見えない壁にぶつかっては跳ね返っていた。

「友の死は、往々にして物事を正しい方向に向けるものですよ、姫さま」

ザーは腹立たしげに絨毯の上を歩み、視線をさげてその固い足を見やった。「お前はもう私の教育係ではないのよ、ウスカデシュ。今の私はお前の女王よ」

一瞬、沈黙がその場を支配した。

「それに、今は昔を思い出すような気分ではないの」サファイア色に輝くエネルギーがザーの両眼の周囲で光り始め、その光は部屋の一角を照らした。ザーはガーゴイル語で罵りの声をあげ、指先にはガーネット色に燃える魔法の火花が弧を描き、この狭い部屋の気温は急に上昇した。

かつては指揮官も務めたこの顧問は、古傷がうずき、最近治まっていた痛みが両肩の間に走るのを感じた。彼は頭を下げ、それにつれて左の翼もわずかに動いた。「申し訳ございません、女王陛下」

ザーは落ち着きを取り戻して吐息をつき、怒りに満ちた魔法も静められた。「今日は任務を与えます。人を探して欲しいのです。あのクリスタルの安全を確かなものにしなければなりません」

ドアのそばに、クロークをまとった“要保護者”が座っていた。赤い革のズボンに締め付けられた足をあぐらに組み、指は何かを描くように宙を舞っている。指先を粉砂糖まみれにしながら、その男はささやいていた。「いや、ちげぇな……、クリームか?ペカンかもしれねぇな。でもアイツがナッツアレルギーじゃなかったらどうすんだ? アイツとナッツか! こいつはすげぇおもしれぇな……」

ウスカデシュは視線を下げ、「我らが社会のために喜んで。この者を連れ出しましょうか?」と、彼がツノを向けた先にいるその男は、いまやすっかり氷菓子のケーキにご執心で、小声でつぶやいている。「メロンかぁ。ウーン」

ザーは再び両者に意識を戻した。彼女は眼を上にむけて、陰った隅に座れる何かがないかを探した。ほとんど命令口調でザーは言葉を発した。

「いえ、彼はここでいいわ。あなたに向かってもらう場所は決まっています。海上よ」卓上の半ば書きかけの書状を広げ、優雅な手が緯度と経度を書き記していく。「このあたりのどこかのはずです。アベリー(Avery)という名の戦士がいるわ。彼とその庇護下にある者に、ドーン女王の死を伝えなさい。ところで、先日の訓練で受けた傷の具合はどう?」

「快方に向かっております、女王陛下」ウスカデシュは姿勢をただした。「それでは、ご命令どおりに」

「無事に戻るのですよ」ザーは応じた。

石造りの廊下に、軍務大臣のタロンが打ち鳴らす足音が響いていく。規則正しいその音は、行軍の太鼓のように響き渡ってあちこちに反響していたが、大臣が去るにつれて消えていった。

「さて、」彼女は“要保護者”に向き直った。「次はどうしましょうか?」

男はクロークに手を差し込んでクリスタルの破片をわずかにのぞかせ、まるで攻撃を仕掛けるかのようにさっとそれを取り出した。そしてチラチラと光るその美しい石をコツコツとアゴに打ち付けて物想いにふけったかと思うと、リカルド(Ricardo)は言った。「そりゃイイ質問だ! ケーキかパイかな?」

ザーの瞳がほほ笑んだ。


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