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不吉な予感

投稿日:2001年6月22日


全シャード
死体を突っついていたカラスの一群は、騎士に追い払われると怒ったようにバタバタと羽ばたき、夜空へ舞い上がっていった。旅のキャラバンを襲った動物、あるいはモンスターの痕跡を探すため、彼が近辺を調べていると、死体の傍らに泥にまみれた斧を発見した。

『オークですね、閣下…。』その騎士は斧を高々とかざし、若いリーダーに向かって自分の結論を報告した。実際には『閣下』という呼びかけは、呪いの言葉のようにかすれて、若い貴族出身のリーダーの耳にはほとんど届いていなかった。

ジャーヴィスはこの場の不快感をなんとか隠しながら、声の主に振り向いた。彼は死体をこれほど近い距離で見た事はなかった。地元の領主を父に持つ息子として、つい最近騎士達への命令を下す立場に就いただけの事なのだ。しかしわずか数名を除いて、尊敬など払われていない事を認識するだけの賢さは持ち合わせていた。騎士たちは、彼の耳に入る事を知りながら、毎日のように大声で嘲りを続けているのだ。それでも彼は、この二週間続けられているあからさまで屈辱的な中傷に対して、決して弱さを見せまいと決心していた。何としても与えられた仕事をやりこなし、その過程で彼らからの尊敬を得るのだと。

ジャーヴィスは不安を退けて、生存者の気配を探し近辺の調査を続けた。調査を終えた時には、虐殺が完膚無きまで行われた事は明らかだった。誰一人として襲撃から逃れる事はできなかったのだ。コーブへの援軍として派遣されたキャラバンが全滅させられている。あたりには胸を突く死臭が漂い、ジャーヴィスは自分が正気でいられる事を祈りつつ、膝をついて足元の死体を調べ始めた。彼は近づいてきた足音に顔を上げた。それはパーティーのレンジャーだった。実際のところ、唯一人パーティーで気に入っている男だった。

『鎧に開いた口、その奥の足の傷を見てください。オークはこれほど強力な傷を残す事はできません。』レンジャーは若い貴族の心の中を読んでいるかのように語った。

ジャーヴィスもこれには気付いていた。実際のところ傷口はすべて小さく、突き刺したり鋭利な刃物で切り裂いたような痕で、オークの斧でできる大きな切り口や、棍棒で殴ってできる大きなへこみではなかった。ジャーヴィスが一人頷くと、レンジャーは話を続けた。

『恐らくブリガンドの一味でしょう。オークにしては攻撃が正確過ぎます。』

『ダスティン、しかしこの辺りではブリガンドは昔から見られていない。それに奴らは単に食料を狙って人を襲う事はあっても、このような大虐殺をするとは信じ難いと思わないか?これはブリガンドの仕業などではなく、誰か…、いや何か別の原因によるものだろう。』

ジャーヴィスは父の望んでいた、そして半ば強制的に就かされた騎士への道ではなく、追跡者や調査員になる事を夢見ていた。紳士気取りの父の言う「一般の人々」として、厳しい訓練に明け暮れる戦士とは別の道を歩みたかったのだ。

肩に掛けられた手にジャーヴィスの思考はさえぎられた。彼はレンジャーの方を向くと、自分の推測が否定されるだろう瞬間を待った。もちろん、こういった分野はレンジャーの方が専門であり、自分は単なる貴族なのだ。自分の考えなど誰も聞き入れてくれるはずもないだろう。レンジャーはそれに反して、合点がいった様な表情で頷き、軽く笑顔を見せた。

『素晴らしい、あなたはレンジャーの才能をお持ちです、閣下。』

ジャーヴィスはダスティンの言葉に喜び、またそれ以上に驚きながら、ダスティンの方でその物音がした時には、踵を返し騎士たちを呼ぼうとした所だった。ジャーヴィスは物音に気づきダスティンを見た。レンジャーの目は大きく見開かれて、その唇は何かを告げようと動いているものの、声は出ていなかった。ダスティンの顔から胸に視線を落とすと、そこには彼の血に濡れた槍が突き出ていた。ダスティンはそのまま膝をつき、槍を突き刺したまま地面に倒れこんだ。ジャーヴィスは急いで助け呼びに道を戻りかけたが、その目に入ったものに身動きが取れなくなってしまった。奇妙な姿をした人間の集団が、騎士たちに猛然と襲い掛かっていたのだ。

ついに敵はその姿を現した…。

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