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良心の撞着

投稿日:2001年6月29日


全シャード
職人に対する侮蔑の念から露にはしなかったものの、ギルヘムはその腕前に密かに驚嘆していた。その代わりに、彼は誰とも目を合わせないようにし、彼に向けられる視線を無視しながら、軽蔑に満ちた笑みを浮かべて道を闊歩するのを好んでいた。

彼は鋭く研がれた剣や、商人の店に並んでいる渡来の武器を試すのを実に好んでいた。しかし、それにもまして彼の心をくすぐり、彼の役割からも使ってみたかったのは、サベージの用いている原始的な武器であった。サベージ族は、山を掘り返し、さらに溶解した鉱石で大地を毒することを酷く嫌っていた。その代わりに、彼らは岩と木、そして硬い木のつるを用いて斧や槍を作り上げていたのだ。彼らは食糧のために狩をし、殺したものは余すところ無く使っていた。彼らが野営地を襲うと、ほんの数時間でそこに人がいた痕跡が無くなってしまうほどだったのだ。

彼が目的地に向けて曲がりくねったバザールを抜ける間も、彼の目に入るものは殆ど無かった。彼はこのような旅を幾度となく繰り返しており、街の新鮮さなどすっかりなくなってしまっていたのだ。遂に、彼は衛兵に嘲笑を投げかけながら長い階段を上っていった。庭に入ると、彼は、その著しい礼儀に反した行為に向けられる視線やささやきを気に掛けることも無く、中央にある泉で手と足を洗った。ギルヘムは玉石の上に小便をしようかとも考えたが、距離が遠すぎたために諦めた。この奇妙な軍隊の中での彼の地位は低く、希薄なものであったが故に、ギルヘムはその制限を突き出すことが殆どできなかったのだ。

「貴様!」

ギルヘムの新しい主人にへつらう妙な服装の男が、ギルヘムに話し掛けるのさえも嫌であるかのように言った。

「その汚い身体をなんとかしろ。」

男が油にまみれ薄汚れたぼろ布を投げつけると、ギルヘムはその男を睨みつけたままそれを受け取った。

「これらは名誉とステータスの象徴なのだ」と、彼は答えた。

「身に付けているのが俺の義務なのだ。」

「それは―」男は言い返すように言った。

「食糧だぞ。なぜ食い物を身体に塗りたくるのか、全く理解できないな。だがご主人様は、もし貴様が聴衆の面前でそれを拭き取らないならば、宮廷の衛兵に貴様を洗わせてやるように仰せだ。強制的にな。貴様が汚したその泉を使うが良い。」

ギルヘムは男を睨みつけたが、男が振り返ってしまったのでそれ以上何も言わなかった。描かれた線や渦の模様をその布で拭い去るのに、さほど時間はかからなかった。まるで裸になってしまったようだった。彼自身が予想していたよりも遥かに、何もかも剥がされてしまったかのような感覚を覚えた。恐らく、この感覚は彼がサベージ族と共に過ごした時間、そしてこの新しい主人に対する反感からくるものであった。しかしそれ以上に、彼自身がそのペイントを身に付けたままでいたかったのだと気付いた。

その後、ギルヘムは別の男の後について堅苦しい宮殿へと入った。彼は独り、壁掛けや分厚いカーペット、小さな噴水に大理石の像や真鋳のランタンでゴテゴテと飾り付けられた部屋に通された。彼は腕組みをし、かかとに体重をかけながら、面会の相手を待つために部屋の中央に立っていた。少し―とギルヘムは確信していた―して、彼は主人の部屋に呼びつけられた。

ギルヘムは、この部屋のブーンという音とカチカチという音、そして明かりに慣れることができなかった。彼はそれを酷く嫌った。彼にはとてもこの世のものとは思えなかったのだ。大きなカシの木のテーブルには主人と同士のために用意されたと思われる豪勢な料理が用意されていたが、ギルヘムは全く食べる気が湧かなかった。ギルヘムは心底この役割が嫌いになり、果たしてこれに見合うだけの支払いが得られるのかどうか考え出すようになった。

主人の突然の声により、彼の思考は妨げられた。その声はギルヘムには不愉快以外の何者でもなかった。

「私の召喚に、こうも素早く応じてくれたことに礼を言うぞ。」

ギルヘムは、彼の声が彼に押し寄せる嫌悪を裏切りはしないかと恐れながら、何も言わず頭を縦に振った。

「話しながら食事にしようじゃないか」ブーン、カチカチという音の感覚が狭くなる中、主人は深くしゃがれた声で言った。

ギルヘムはそれが命令であると解釈し、テーブルに向かった。旨そうに見えるものは何も無く、彼は調理された魚をとり、皮を剥きはじめた。ちょうど半分ほどの皮を空いた皿に取り去ったところで、ギルヘムは肉汁の滴る魚の肉を指でつまみ、口の中に放り込んだ。

「さて、はじめましょうか。」しもべの男が顔をしかめながら言った。

「報告したまえ。」

「全て順調です、閣下」ギルヘムはその男にではなく、主人に対してそう答えた。

「部族は緑肌をキャンプから追い払っています。大地は豊かで、彼らの良い住処となるでしょう。」

ギルヘムが続けようとしたのを遮るように、また別の男が口を開いた。

「斥候からの報告は?」

「我々は街を発見しています。しかし、それらは緑肌の領地の奥深くにあるため、偵察には危険が伴います。故に離れたところから見たに過ぎません。建物の構造から、緑肌のものであることは明白です。そこに住まうものは、貴方のように進んだ文明を持ち合わせていることでしょう、閣下。」

ギルヘムは対峙する面々の表情を伺いながら説明をしたが、特に反応は無いままだった。唯一の反応は、しもべの男がさほど驚く様子も無く頷いて見せた程度であった。

主人が再び口を開こうとすると、ブーン、カチカチという部屋の音が鳴り止んだ。

「部族には攻撃を続けさせるのだ。緑肌を追いやり、奴等の領地を手に入れろ。」

主人から重々しく命令がなされると、しもべの男はスクロールと羽ペンを机の上に広げ、慎重に書きとめ始めた。

ギルヘムは宮殿から出され、宮殿の別の場所へと急がされた。そこは強い魔法の匂いが漂うところだった。彼は序列に加わり、報酬として塗料入りの瓶がいくつか入ったバッグを受け取った。すぐさま彼は宮殿の門に案内され、一族の元へと旅を再開した。街を出るとすぐに、彼はその身体へのペイントを塗りなおし、村へと戻った。オークの最後の一団がその土地から追いやられ、そしてきっと彼らは他の種族をも追い払ったことだろう。彼は作戦を進めた。

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