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血文字の伝言

投稿日:2001年10月26日


全シャード
ドアが強く叩かれ、仕事中のクレット(Krett)は飛び上がり、何か重くて分厚い物に頭をぶつけた。低い、銅鑼でも鳴らしたような音が彼の小屋中に響き渡った。両手で後頭部をしっかりと押さえて、ゴーレムの頭を調べようと、片目で上を見上げ、クビの付け根部分の上で、ゴーレムの頭を揺すって見た。クレットはその機械の本体から後ずさり、頭蓋骨が起こしている、ちょっとした激震にたじろぎつつ、油だらけの布で両手を拭った。ドアを叩く音が続いており、彼は布きれを放り投げた。『今行くよ!』口ごもりながら彼は言った。

彼は研究品が山積みの、筋向かいあたりの階で仕事していた。半分組み立てられた状態のゴーレムの部品が、障害物コースとして認定されるだろう程の複雑さで散らばっていた。また、上にそびえる大木から降って来たかの如くちらばった書類も、一緒にばらまかれていた。壁一面に時計が並んでいた。もっともその半分は、殴り書きしたピン留めの計画書で覆われていたが。彼が歩ける場所全てを迷路と化してしまったので、彼の背後には書類の山が溢れ、床では小さな工具がカラコロと鳴っていた。クレットがドア近くまで来た時、またドアが叩かれ、そしてドアは開かれた。

『クレット!なんだ居るじゃないか!』皮の鎧を着て、背中に弓を担いだ男が言った。

『シャミノ(Shamino)? あ・・・なんだ、早かったね!入って、さあ入って!』

クレットは脇に立ち、その高名なレンジャーに入るよう促した。ただ、その小屋に入る事ができる余地は少なかったが。シャミノは、半ば分解された機械部品の山を見て、ちょっと邪魔をしてしまったかと気がついた。

『早く着き過ぎたかな?時間通りに来たはずなんだが。』そのレンジャーは床に置かれたギアの塊を興味深そうに足で突いていた。

クレットは反対側の部屋に置かれた、ほぼ完成されたゴーレムの方へと後ずさった。『私はどうも、ええと、そこの相棒の世話で時間を忘れてしまってたようだね。今何時だろう・・・』

彼の声は、何十もの時計が一斉に鳴った音で遮られた。シャミノは、細工師の時間にまつわるその小道具が出す金切り声に辟易していたが、ちょっとして、友人を見て笑いを浮かべて見せた。

「おお、6時だ。時間通りだったね。』クレットは、ゴーレムの頭をテーブルの上に持ち上げながら言った。

『クレット、私が会いに行くと連絡したのは、君の助けが必要だからなんだ。君の専門家としての意見が、非常に有効な物となると思っている。』シャミノは何気なく、上向きに置かれたゴーレムの脚に腰掛けた。

『私が?』クレットは問い返した。『なん、ええと、具体的には、私が何に、必要なんだい?』

『この機械仕掛けの連中の知識だよ』

『ゴーレム・・・』クレットが上の空で言った。

『なんだって?』シャミノが聞き返した。

『シャミノ、彼らはゴーレムと呼ばれている、“Por-Xel-Agra-Lem”だ。人間とは全く異なる。彼ら、ええと、彼らは人間見たいに見えるかも知れないが、自由な意志を全く持たないんだ。君の弓や、私の工具見たいな物なんだ。』

『Por-Xel・・・なに?』シャミノは混乱したようだった。『なんと言うんだって?』

『ええと、私が知っている事は、それはガーゴイルの言葉で”ゴーレム”という意味だと言う事なんだ。私は、彼らの言語を多く学ぶ機会があって、ええと、冒険者達が戻った時に持ち帰った、色んな小片からね。全く心を奪われるよ。』

『そうか・・・』シャミノはクレットの小さな作業場を見回し、『友よ、ガーゴイルの技術に関して、君より多くを知る者は恐らくいまい。君は現在ブリタニアにおいて、ゴーレムの大家だ。そしてだからこそ、私は君を連れて行きたい。君の知識が大変有効な物となるかもしれない。このガーゴイル達について学ぶ事に関しても、君は助けとなってくれるかも知れないな。』クレットが、彼に向かって床に座り込んでいる巨躯のゴーレムに、手際よく工具を使っている所を見るのに、シャミノは立ち上がり彼の方へと歩いて行った。『これらの物がどこからやって来たか、より多くの情報を得る為に、ニスタル(Nystul)はイルシェナーへ探索隊を送り込んだ。彼らはまだ戻っておらず、ニスタルは私に、彼の地へ赴き探検隊を探すよう頼んできたんだ。』

『君はどうして、私が一緒に行く必要があると言うんだい?私は、うん・・・精密に調査できるとも、ええと、君がそれを、持ち帰って来てくれれば。』

『そうだな、だが、君は我々が見逃すかも知れない何かに、そこで気が付くかも知れない。ブリテインから衛兵を二人連れてきているから、君の身は安全だ。』シャミノはそう請け負った。

クレットはちょっとの間、まるでいま初めて会話に気を止めたかの様に、仕事の手を止めて顔を上げた。『シャミノ、私はその、そんな立派な、冒険者なんかではないんだ。私は、ここで仕事をしている方が、ずっと気が楽だ。私は細工師だ。私は・・・そう、細工師、なんだよ。』

シャミノは、クレットと彼の研究品の周りをゆっくりと歩いて回った。『聞いた話だが、君も知っているだろう、ゴーレムが初めて現れた頃と、ちょっと変わってきている事を。』 『それは本当さ!』クレットの声は、彼が作業中のゴーレムの胸の空洞から響いて来た。『ゴーレムを作ったのが誰だろうが、1回以上は設計を変更しているんだ。内部の部品が違うように見える、その、新しい方の奴と。ゴーレムがまた変化しても私は驚かないよ。』

『その新しい方の奴を見る、最初の人になろうと思わないか?一緒に来いクレット、お前の機械人形が実際に動いている所を見るチャンスなんだ。ガーゴイルの都市その物すら発見できるかも知れない。』彼は笑いを浮かべながら、近くにかがみ込んで来た。『そこにある学ぶ事ができる物全ての事を考えて見ろ』

クレットはため息をつき、仕事から手を離し、ゴーレムの頭を今度は慎重に脇へ押しのけた。彼は床にじっと目を落とし、長い間考えていた。

『私は、ええと、荷物を取って来るよ。』






クレットは馬から降り、このような獣の類に頻繁に乗らなくて良い事を喜んだ。彼には、彼のゴーレムの一体が息を吹き返し、彼を一時間揺さぶっていた様に感じられた。彼は工具と文献が全て揃っているか、自分の荷物を調べあげた。シャミノと二人の屈強な衛兵も馬を降り、周囲を探索し始めた。

『イルシェナーへようこそ。クレット、調子はどうだ?』シャミノは尋ね、彼の表情に微かな笑いの様な表情が浮かんだ。

クレットは立って友人に顔を向けた。『1時間の間、ええと、脳味噌が頭の中をはね回っていたよ。君が私に、その、何かを学べと言うのなら、それは、学ぶなんて言う望みはもう無いという事だと、思うよ。』

シャミノは友人に向かってにやりと笑った。『君は良くなるよ。ただ馬に慣れてないだけ・・・』シャミノは立ち止まり、じっくりと凝視する様に周囲を見回した。『近くにゴーレムがいる・・・こっちだ。』衛兵に目配せし、衛兵は肯いてレンジャーが指示した場所に向かって走りだした。

クレットは当惑していた。『君、君は、ゴーレムの物音が、聞こえたのか?』

『聞こえなかったか?』シャミノは片目をつぶって見せた。

二人は衛兵が走り去った方に歩き出した。歩き始めて数分後、二人は衛兵達が、まるで道端にある切り株の様なゴーレムの残骸の周りを、うろうろと歩き回っているのを見つけた。衛兵達は、その物体を破壊するのに汗一つかかなかった。洞窟は彼らの背後に口を開けている。シャミノは、クレットが興奮してゴーレムに近寄って行き、書き付けている分厚い本と一緒に、細工道具を引っ張りだしたのを見て、笑みを浮かべて見せた。

『トーマス(Thomas)、クレットとここに残って、彼の新しいおもちゃを調査しろ。』クレットはゴーレムの胸の鉄板を外しながら、シャミノを見上げてにやりと笑った。『ウィリアム(William)、一緒に来い。我々はちょっとこの洞窟を探索するぞ。地図によればこれはガーゴイルの都市に続いている。』

シャミノと衛兵は洞窟へと歩み入り、洞窟の闇に覆われていった。トーマスが傍らに立ってしげしげと見つめる中、クレットはゴーレム内部の部品を外し続けていた。時には厳格な衛兵も、ゴーレムのかけらを彼のハルバードでつつこうとした。 

『これはなんだ!』クレットは、機械仕掛けのその物体の隙間から、一つの部品を引っ張り出して叫んだ。『この部品は、ええと、そう、ええ、従来のゴーレムと違っている!部品が少ない・・・』その金属の部品の中から、微かに光がさしているのが見えた。クレットは猛然と細工道具を使って作業を続けた。『ここ・・・に何か見つけたと思うんだ。』 『本当ですか?』トーマスは、クレットが夜の暗い道では決して聞きたくないような、野太い声で聞き返した。

『ああ、うん・・・そうだ。分かるかい、従来のゴーレム、私がその、いじる機会に恵まれた方の奴は、この部分に追加の部品があったんだ。私が言えそうな事は、これは何かのスイッチで、ゴーレムが休止する時にオフになるんだ。それは全て、ええと、何らかの水晶の一片が中に仕込まれている。けれどもこのゴーレムは・・・』クレットは別のパネルを開けた。『やっぱりだ。こいつの中にある水晶は無傷のままだ!従来のゴーレムは動きを止めると、水晶が破壊されるタイプの装置が付けられていたんだ!』

衛兵は顔をしかめた。

『このクリスタルをどうするかわかるかい?』クレットは興奮で跳ねたり縮んだりしていた。

『クレット!』シャミノの声が洞窟の入口からこだました。『こっちへ来い!早く!』

クレットは衛兵を見て、そして二人とも洞窟へと駆け込んだ。松明に火を点けると、今やクレットにも、その新たに掘られた洞窟の周囲に、血と死体とが見えた。具合が悪くならないように、彼は全力を尽くした。彼は戦士ではなく、今まで死人を見た事が無かった。

『すまない友よ。気分の良くない光景である事は分っているが、ここに手がかりがあるかも知れないんだ。』シャミノは洞窟の深部へとクレットを連れて行った。『これが数日前、ニスタルが送った探索隊が残した物だ。何が彼らを殺したのか私にも分らないが、なんであれそいつは、仕事をきっちりやり遂げた訳だ。』クレットは、洞窟の壁に視線を合わせようと努めて、死体には合わせない様にした。『クレット、お前の肌に合わない事なのは分かるが、衛兵がお前を守る。お前の知識が必要なんだ。』

松明を持って、クレットは周囲をゆっくりと歩き回った。人の手の感触がブーツの下に感じられた時は、ちょっと飛び上がり唾をぐっと飲み込んで、臆病さをしまい込もうとした。死体の全身を明らかにする為、松明を低く構えた。この男はここで死んだ。だが、それは自分の血で洞窟の壁に字を書いた後の事だった。『シャミノ、ええと・・・その、思うに、何か見つけたぞ!探索隊の一人が、彼が、その、私たちに、その、メッセージを残そうと、したんだ。たった一語だが、しかし、うん、私は、その、私には、何だかわからない。』

『ガーゴイル語で書かれた何かなのか?』レンジャーの声がこだました。

『調べてみる・・・うん・・・今調べているよ。』クレットはガーゴイル語について彼がしたためた分厚いノートを隅までめくった。彼は自分の知識が限定されている物だと知っていたが、壁の言葉が何を意味するか判別できない事が分かると、落胆を隠せなかった。彼にはそれがガーゴイル語なのかすら分からなかった。

『すまないシャミノ。私には、その・・・これが何だか、ええと、これがどんな意味なのか、言い表せない。名前かも知れないし、場所か、街かも・・・私には分からない。それは、その、私の資料には無くて、でもそれが何なのかは、学ぶべきだと思うんだ。この人は、君にこのメッセージを残そうとしながら、死んだんだ。』

『クレット、これは何という言葉なんだ?』松明の明かりに近付き、シャミノは尋ねた。 クレットは友人を見て、そして壁に視線を戻して言った。『それには、”エクソダス”と書かれているんだ。』

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