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戦火に残された希望 - III

投稿日:2001年2月11日

JP Reporter
全日本シャード

『デュプレ、俺は心配でたまらない。ニスタルは俺達の知る限り最も強力な魔道士のはず。レブロはその彼を指先1本で跪かせる力を秘めているんだぞ』

『ああ、その通りだジョフリー。だがどうしてそいつは俺達の前から逃げたりしたんだ?』

『さっきも言ったろう。おまえさんの口臭に違いないってな』ジョフリーは笑顔を見せた。

『そうだったのかもな』デュプレはクスクスと笑い出した。『さあ、本を取りにいくぞ』

『ああ、そうしよう』ジョフリーはうなずき、そして2人は旅立っていった。





デュプレがニスタルの部屋の扉を叩いた。しばらくすると、まだやつれを隠せないニスタルが姿を現して彼とジョフリーを部屋に招きいれた。

『本は持ち帰れたのか?』ニスタルは自分の机に向かって足を進めながら訊ねた。

デュプレは悪戯そうな笑顔でバッグから2冊の本を取り出すと、疲れ果てた魔道士の前にそれらを置いた。

『途中、何事もなかったのか?』ニスタルが問い詰めた。

ジョフリーが話に割って入った。『些細なことです。適当にこなしておきましたよ』

ニスタルは怪訝な顔で訊ねた。『どのくらい殺したのじゃ・・・』

デュプレが答えた。『ただの1人も殺していません』

『ただ…衛兵には2名ほど休んでもらいましたがね。意識を取り戻せば元通りになるはず』ジョフリーが笑った。

ニスタルは安堵のため息をついた。『派閥抗争は血生臭いものじゃが、使命を忘れることなくよく頑張ってくれたな。 誰の命をも奪うことは避けたいが、時としてそれは贅沢な望みとなることもある。何事もなくこれらの本を持ち帰ってくれたことに礼を言うぞ。後はわしに任せてくれ』

『ニスタル殿、お身体の方はもう大丈夫なのですか?』デュプレが眉をひそめて訊ねた。

『ああ、ありがとう。悪魔との遭遇で確かに疲れてはいるがな』ニスタルは渋い顔をした。
『さあ、おまえたちはいつもの仕事に戻ってくれ。デュプレ、おまえはタイボール(Tyball)を探し出すための手がかりを見つけたのだろう?2人とも出て行くのじゃ』ニスタルは優しく言った。

デュプレがジョフリーに視線を投げると、ジョフリーはうなずき、2人はニスタルの部屋を後にした。





ジョフリーとデュプレは城の中庭を歩き始めたがすぐに立ち止まってしまった。

『デュプレ、どうもニスタルが心配なんだが…』ジョフリーが言った。

『ああ、私も同じだ。あれほど怯えるニスタルをかつて見たことがない。新たな鐘を作り出すことで少しでも自信を取り戻してくれることを祈ろう』デュプレが応えた。

『まったくだ。神殿を清めることでフェルッカでの命に活力をみなぎらせ、あの魔女を倒すきっかけになって欲しいものだ』

デュプレは振り返ると再び歩き出した。『あの魔女が鐘の在り処を知り得、そしてそれを破壊することができたということを、私は事実として受け入れるしかないようだ』

『鐘、蝋燭、そして古書に魔法が宿っていたとしても、それらがまた同時に物質的な存在であることも事実だ。そうであるなばら破壊という行為には屈することができない可能性は十分にあるんじゃないか?』

『恐らくな。では、私はこれで帰ることにする』デュプレはそう言い残すと城門に向かって歩き始めた。

『じゃあな』ジョフリーはそう言うと城の中へと消えて行こうとした。

『ジョフリー』デュプレが呼び止めた。『おやっさんを頼んだぞ』

『ああ、そうだな。そうするよ』





翌日、デュプレとジョフリーはニスタルの部屋にいた。疲労の残っているだろうと予測されたニスタルはそれ反して今日は自信に満ちているように見えた。彼は探していた知識を手にいれたようだ。

『勇気の鐘を製造するための材料リストを書き出しておいた。わしが最も恐れているのは、このうち一部の材料についてじゃ』ニスタルは腰掛けると巻物を机の反対側のデュプレに示して見せた。

デュプレとジョフリーの2人は巻物をじっくりと読んだ。

『ニスタル殿?これはあまりにもレアと呼べるものばかりのようですが…』デュプレは困惑した。

『そうかも知れん』ニスタルはにやけて見せた。『おまえたちならば、きっとこのすべてを、しかも短時間に見つけてきてくれるじゃろうと信じているぞ』

2人は互いに顔を見合わせると低く唸った。

『おまえたちは世界で最も尊敬されている人物のはずじゃ。きっと幾人もの優れた男女が材料を探す支援を申し出てくれるじゃろう。 1つ注意しておかなければならんのは、敵対する他の派閥の者達は、巧みにおまえ達の行く手を阻み、そしてこの使命を阻止しよう狙うことじゃ。 その1つ、魔道士評議会のアノンは我々がすでに真実の本、そしてフェルッカからおまえ達が借りてきてくれた2冊の本の存在に激怒するじゃろう。 ミナックスの連中は鐘を破壊したらかには、おまえたちがこれらの材料を見つけ出すことを全身全霊を掛けて防ぐはずじゃ。そして最後に』ニスタルはそこで言葉を止めた。
『最後にレブロとシャドーロードの崇拝者達…奴らの恐ろしさには底知れぬものがあるじゃろう…。どうか充分に気を付けて行動して欲しい』

『ニスタル、あのときはふいで準備が整っていなかっただけのこと。決してあなたの力が及ばないなどとお考えにならないでください』ジョフリーが返した。

『まったくです』デュプレは続けた。『ニスタル、あなた以外に自分の背後を守ってもらいたい魔道士などこの世界には存在しません』

『優しい言葉に感謝しよう。しかし、わしは憶測はせんたちでな』ニスタルは静かに言った。
『さあ、2人とも出かけるのじゃ。どうか迅速にこれらの材料を集めてきて欲しい。長い間に渡って崩壊寸前の神殿を早々に清めなければならん。 必要なすべての材料が揃った時点で役目を果たすべくシャミノ(Shamino)もすでにこちらへ向かっているはずじゃ。蝋燭と古書はすでに我らの手中にある。 しかし鐘はどうしても作り直さねばならない。時間が経てば経つほど神殿を清めるには強大な力が必要となるじゃろう。さあ、一刻も早く行動を起こすのじゃ!』

ジョフリーとデュプレは同意のしるしにうなづくと、巻物をつかんで部屋を足早に出て行った。

ニスタルはゆっくりと椅子に身体を預けた。

『友よ、どうか安全に戻ってきてくれ…』

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